HOME : リクィド・ファイア
 移行後のはてなブログ:izumino’s note

岡田斗司夫について

 岡田斗司夫は結構好きなんですよ。
 唯一許せなかったのは、オタアミの連中にひっぱられてエヴァをバッシングした頃くらい。それも本人が後で「エヴァに関してはもう、どうと言うつもりもない」みたいなことを言ってしまうような、裏表の使い分けっぷりも嫌いじゃない。


 岡田さんの仕事で特に印象に残ってるのは、「SPA!」で連載していた『人生の取り扱い説明書』ですね。まずぼくが知ってる岡田さんというのは「交渉術の達人」としてのその人であって、そういう実績がある人なりの説得力があって、好きでした。
 ちょっと要約してみます(最近の人にも解りやすいように、例には私見を入れています)。


 パッと見はユングの性格分類のパクりなんですが、性格ではなく、人間の根元的な「欲求」をよっつに分類します。


王様タイプ:岡田斗司夫本人のタイプであり、漫画家でいえば赤松健が典型的。自分のこだわりを表現するよりも、他人に評価・賞賛されることでしか満足できない人達。自分の周りに人が集まってこないことを嫌う。


軍人タイプ:漫画家でいえば梶原一騎、スポーツの世界だと星仙一監督が典型的。他人にどう思われるか(自分で自分をどう思うか)よりも、勝ち負けや優劣を優先する人達。勝利の反動として、突然慣れない人生哲学に走ってしまうのもこのタイプ。


学者タイプ:文字通り、研究者タイプの人達。自分の知らなかったことを「わかる」ようになるのが何よりも重要。知識の整理・応用が得意で、マジメで、無知扱いされるのが嫌い。


職人タイプ:文字通り、職人気質の人達。自分のやりたかったことが「できる」ようになるのが何よりも重要。漫画家やアニメーターの大半はこれ(トミノ監督とかを見ると凄く解りやすい)。自分らしさやスタイルを大事にし、ガンコで、無能扱いされるのが嫌い。


 そして面白いのは、降順の対象には「憧れ」が発生し、昇順の対象に「見下し」の評価を持つこと。
 王様は、「才能を自分の世界で腐らせて、他人に喜ばれるような表現をしない」職人の気持ちが理解できず、人気取りに大風呂敷を広げがちな自分は「企画実行力と実力のある」軍人に憧れる。
 軍人は、「ウケばかり気にして、最速で勝ちにいけない」王様が軟弱に見える反面、自分は勝つための知識や経験則を常に欲しているので「知識が整理されていて豊富な」学者を羨ましがる。
 学者は、「緻密なデータや方法論を、強引に現場活用して台無しにする」軍人を疎む一方で、イマジネーションを持たない自分は「個性や創造性を持った」職人を別格視する。
 職人は、「雑学だけを抱えて、その知識を有意義なことに使えない」学者が愚か者に見えるし、自分の個性が理解されないことが日常茶飯事だから「日の当たる場所で人気のある」王様にコンプレックスがある。

 このように、自分と違うタイプの人間をパートナーにしようとした場合、利害が一致することもあれば、微妙なすれ違いが発生することもある。
 更に、対角線上の相手は接点が少ないものの、相互補完的な能力を持ち合えるため、理想的なパートナーになる可能性がある。
 「口先が多くて、細かい事実を深く考えていない」王様はその細かい部分を指摘してくれる学者と相性が良いし、学者にとっても、自分のデータを世間一般で検証する機会が得られる。
 「こだわりが強すぎてなかなか作品を世に出せない」職人はマネージメント能力を持った軍人と相性が良いし、軍人にとっても、自分が持っていない技術や個性は貴重な即戦力になる……というように。

 ちなみに、個人の欲求と才能に関係はなくて、絵のうまい軍人タイプも居るし、口下手な王様タイプや勝負強い学者タイプも居るそうです。
 要はどの欲求が満たされたら本人は嬉しいか、であって、自分の欲求にあった仕事ができれば幸福である、という主旨の連載なんですね。




 これをTRPGのプレイヤーや作家論にあてはめると、なかなか遊べて面白いと思います。
 ただ作家の場合は九割方が職人タイプで、職人タイプの作家は誰も似たり寄ったりですから、職人タイプではない作家を分析する役に立つ、ということですが。

 特にぼくが赤松さんを特別視しているのは、彼が「研究者タイプの自意識から出発し、クリエイターの職場で、人に喜ばれるスタイルを選び、しかもそれが商業的に成功している」、つまり学者・職人・王様・軍人よっつの欲求全てをバランス良く満たしている超人っぷりからきていると思われます。そういう人間には憧れるしかないだろう、という自己分析もできるんですね。
 当然、赤松さんのメイン欲求は明らかに王様タイプなわけで、彼の「研究成果」は極論的・広視野的すぎていて、大雑把かつ当たりはずれが多い(=実は学者タイプの欲求が浅い)ということも言えると思います。
 赤松スタジオの裏事情を知ってる人は、職人の欲求も浅いんじゃないか、と知ったかぶって言うかもしれませんが、作品の完成度に対するこだわりは強い人でしょう。まさかアシスタントが毎回、「このページはここまで描き込みます」とか言ってあのクォリティを維持しているわけではないでしょうから(あそこのアシスタントは全員職人タイプに見えますけどね)。


 そういうぼくは職人タイプなのか学者タイプなのか良く判らないところがあります。