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『ふたりはプリキュア』終了後のまとめ(その2)

 続きです。できればその1にも目を通しておいて下さい。少年漫画論にも触れた内容なので、プリキュアを観てない人でも読める文章だと思いますが。


 前回説明したのが、「子供が大人に負けないこと」をテーマにした少年漫画が基盤になっているということと、しかしその中身ではバトルや勝利を重視せず「女の子の日常を守ること」を主目的にして描いている、ということでした。
 再び『美少女戦士セーラームーン』を例に出すと、あの作品の主目的は「セーラー戦士の運命との戦い」であって、女の子的な恋愛や友情のエピソードはあってもあんまり「日常」を描いてなかったという違いがあります。後発作品の『魔法騎士レイアース』なんかは舞台が異世界に飛びますから、特にその傾向が強くなりますね。


 じゃあ、実際に『ふたりはプリキュア』は何をどう描いていたのか。その前にちょっと少年漫画についておさらいをしたいと思います。
 バトルにおいて弱者(=子供,理想)が強者(=大人,社会)に勝つには「もっともらしい説得力を持った理由」が必要になります。ここらへんは夏目房之介さんがBSマンガ夜話の『キン肉マン』の回で語っていたことを聞いてもらえれば一発で伝わると思うんですけど、もし観れる人はチェックしてみて下さい。
 ジャンプ漫画では良く「努力・友情・勝利」の三箇条が持ち出されますが、このうち「勝利」は最終的な到達点を表していて、「努力・友情」はそこに説得力を与える素材にすぎません。だから場合によっては「努力・勝利」だけでも少年漫画は描けるし、「友情・勝利」だけでも少年漫画にならないことはないわけです(両方揃ってた方が豪勢だから、結局は両方描かれるケースが多いですが)。


 少年漫画で言う「努力」というのは「訓練による地道な成長」というよりむしろ、精神論的な「ど根性」に近いものです。念ずれば通ず、諦めない心、というか。
 はっきり言ってしまえば子供よりも大人の方が努力していて当然なわけですから、大人と同じ努力をした所で勝てないわけで、現実離れした特訓や凄い超能力が必要になってきます。それを可能にするのが「勝利を諦めない心」、ど根性であり、それがキン肉マンでいう所の「火事場のバカ力」なわけです。逆に、強者は主人公よりも諦めが早いから負けてしまいます(あるいは、敵を諦めさせることが戦いのカギになる)。
 業界用語で言えば、地道な訓練を描いて説得力を醸し出していく漫画を「努力型漫画」、ど根性で解決していく漫画を「根性型漫画」と呼びます(……と思う。誰が呼んでるのかはナゾ)。


 「友情」というのも、それ自体がテーマではなくて、子供の世界にとって「仲間と協力した方がなんとなく強くなったような気がするから」勝利に説得力を持たせる為に友情が描かれます。キン肉マンでいうと「友情パワー」がそのまんま強さに繋がった友情ですね。そして、強者は友情パワーを持っていないのが普通です(たまに友情パワーを持つ敵というのも出てきて苦戦させられますが、その場合は根性の比べ合いになる)。
 これは「協力型漫画」と呼ばれます。


 また、数年前から「アイディア型漫画」というパターンが流行っていますが(ジョジョ第四部以降など)、これも実際は「必死にアイディアを閃かせて頑張る」という意味で「努力」と似たようなものだったりします。映画『ホームアローン』なんかが解りやすいですが、この「必死にアイディアを閃かせて頑張る」は子供が大人に勝つことのできる数少ない手段の一つなので、少年漫画では重宝されます。
 あと多いのは「天才型漫画」。遺伝的に恵まれていたり元から人間じゃなかったり超能力を与えられたりして、見た目は普通の人間なのに実は無茶苦茶強い、というパターン。努力型に見える主人公でも、特訓の内容が人間離れしていると天才型に近付いていきます(ラーメンマンなんかは確かに努力してますが、彼は殆ど天才でしょう)。で、天才でもノホホンと戦ってるわけじゃないですから、心理的な意味での努力は必要になってくるんですが(世の中の矛盾と戦うとか、信念を貫くとか)。
 他に説得力を満たすものに「イヤボーン」がありますが、これも「キレたら無敵になる」という子供の思考レベルに則ったものだったりします。


 上記のパターン全てにおいて肝心なのは、「説得力の理由をはっきり描いてはいけない」ということです。極端に言えば「合理的な勝算のある戦いをしてはいけない」という意味でもあります。
 合理的な勝算のある戦いを仕掛けるのは大人の世界の思考レベルであって、子供がそれをぶち壊すことに「夢」があるわけです。


 夢がある、と言っても現実逃避的な意味合いは無く、「先は見えないけどとりあえずやってみよう」「なんとかなるさ」「少年よ大志を抱け」のメッセージ──てらいもなく言ってしまえば「勇気」という所なんですが、その精神を子供達(時には大人達にも)に伝えられるのが少年漫画の醍醐味だとも思います。『コロコロコミック』でいう「ドラゴン精神(勇気・友情・闘志)」が端的にそれを表してますね。
 だから努力型漫画やアイディア型漫画の描写が合理的になりすぎると、その「勇気」の描写が疎かになる恐れもあります。「完璧な勝算のある戦いしかしない」主人公だったら、「完璧な勝算の無い戦いはしちゃダメなんだ」という夢の無い理屈にも繋がりますから、それは少年漫画のテーマというより、大人向けコミックのテーマになっちゃうんですね。*1
 勝算はあるのか無いのか解らない。でも戦う! そして実際に勝てた! そういうことは現実にも起こりうることですし、少年漫画で描かれるのは、そういう現実の側面だと思います。




 まるでプリキュアの話になってないので話に戻すと、『ふたりはプリキュア』は「協力型」と「天才型」の複合で勝利の説得力を作っていることがお解り頂けるんじゃないかと思います。たまにイヤボーンも出てきますね(どれも、合理的な説明がまるで無いことも含めて)。
 とりわけ重視されているのが「協力型」の要素であり、つまり友情パワーです。『ふたりはプリキュア』は友情パワーで日常を守るお話だったということです。


 続く。→id:izumino:20050210#p1

*1:最初は勝算があったつもりなんだけど途中で勝算が崩れる、というパターンならアリ。福本伸行の漫画なんかが大抵そうですが