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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

BLと百合の対称性と非対称性

 「百合とやおいの共通性」についてはウチの日記でも何度か言及していることで、たまによその日記で引用されたりもする。
 この話題に関しては、ぼくはネットでもかなり初期から発言していた一人だと思うのだが、きちんと整理しようかすまいか迷っていた。でも、誰かに先手を打たれてしまう前にまとめてみようと思う。
 例によって断定口調でズバズバと書いていってしまうけども、もし首を傾げる様なことが書かれていば指摘していただきたいと思う。


 ちなみにぼくが「女の子同士の恋愛」の存在を初めて知ったのは、昔の『ファンロード』でだったと思う。確か10年くらい前だろうか。
 ファンロードの読者コーナーでは「やおい」の隠語として「やさい」という言葉が使われていたのだが、それに対応して「くだもの」という隠語も生まれていたのだった。
 「これは良いくだものですね」とか「美味しいくだものをありがとうございます」とか、冗談交じりにそんな会話が繰り広げられていたような記憶があって、多分その発言者達は女性だったのだろうなぁと、今思えば感慨深かったりする。


 さて、ぼくの日記でキーになってくるのは「ボーイズラブ(以下BL)と百合は表裏一体」という言葉なのだが、これは雑誌『百合姉妹』の編集者の発言が由来であることは以前述べている。
 しかし、これを字面通り理解してはいけない。
 ここで注意しないといけないのは、「百合姉妹の編集者」イコール「マガジン・マガジンのBL雑誌の編集者」だという点だ。普段からBLを読み、BL作家と打ち合わせをしていれば思考回路もBL的になってくるのも当然*1で、そんな人からすれば百合作品も「そういう目」で見えるだろうし同一視もしてしまうだろうからだ。
 しかし、そういう問題を差し引いた上で、彼女達が「BLと百合は表裏一体」と主張し、BL作家に百合作品を依頼するという状況は興味深いと思える。

  • 女性にとってのBLと百合の対称性

 ぼくは「やおい回路」と勝手に呼んでいるのだが、女性には同性同士の関係を恋愛関係に置き換えて&楽しんでしまう回路が備わっている、と、とりあえず仮定しよう。
 これは男同士相手でも女同士相手でも発動する可能性があって(男同士相手の場合、彼女達は「やおい神様が降りてくる」という言い方を良くするのだが)、どちらも同じ「やおい回路」から生まれているものだと思う。


※)解りやすい例として、タカラジェンヌに向けられるヅカファンの「キャー!」を想像してみよう。あれは(男役と男役の絡みを裏読みした)「男x男」妄想に向けられる「キャー!」だったり、(男役と女役の絡みを引き下げた)「女x女」妄想に向けられる「キャー!」だったり色々パターンはある筈だが、根っこは同じ「キャー!」だと思う。後の細かい違いは、派閥や趣味の差ではないだろうか。


 男性同士が対象だと「突っ込むモノと突っ込まれるモノ」がちゃんと付いているおかげでハードな(「使用」目的の)方向に行って読者の鼻息も荒くなりがちだが、その根底にあるのはエロスではなく、アガペー的な純愛だったり、プラトニックな恋愛だったりする。そして、ハードさが薄められたBLはソフトBLと呼ばれたりする。
 反対に女性同士が対象だと「付いてない」からか、自然とハードな方向は薄められがちになる。
 だから、これらの(ハードな部分をとっぱらった)「ソフトBL」と「ソフト百合」はシンメトリックな形になっていて、だいたい似たような回路で創作されたり楽しまれているんじゃないかと想像できる。
 もちろん、百合趣味の無いBL好きの人や、その逆の人も居るだろうから、アシメトリックな部分もあると思う。と同時に、それは「趣味の違い」の範囲内ではないだろうか。

  • 男性にとってのBLと百合の非対称性

 男性はこの「やおい回路」を大して持っていない。ある程度の素養はあっても「やおい神様が降りてくる」とまで言えるのは稀で、基本的に「受け手」に専念するか、創作する場合は女性作家の模倣(パロディ)をすることになる。
 確かに彼らは女性のやおい回路から生まれた百合作品を好むが、以前マリみてを例に出して言及した通り(id:izumino:20040525#p1)、男性もまた独自の回路で百合を楽しんでいるから、受け手側の男性にやおい回路は必須でないのだ。
 自分で百合創作をする場合は、美少女コミック美少女ゲームの手法、つまり「ラブコメ形式」を応用する。それによって生まれた作品は男性も女性も受け手側になることができるし、女性がラブコメ形式で描くことだってある。


 また、男性は「ショタ」か「女装」を通さないと男同士の恋愛を描けない、という女性との違いがある(まぁ、それすら少数派なんだが)。だから、男性にとってのBLは、百合とアシメトリックなものだと言えるだろう。
 そんな反面、より前向きに作品を楽しむ(快を増大させる)ためにやおい回路を育んでみる男性もおり、そんな彼らはBLも百合と同じ視点で楽しめたりする。*2

  • 「女性にとってのBL」と「男性にとっての百合」の非対称性

 このように、BLと百合は対称性と非対称性が複雑に入り込んだ構造をしており、だから「百合はやおいの裏返し」なんて言うのは、ちょっと安易が過ぎるのである。

*1:それが世に言う「腐ってくる」ということなのだろう

*2:まぁ、ぼくがそうなんだが