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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

百合用語の使い分け

 好き好き大好きっさんとこのここ(「ついでに、いわゆる「女の子同士」モノについて考えてみる」以降)や、ブログ界隈のカップリング話などを読んで感じたことなんですが。
 以前から繰り返されてきた話題ではあるんですけど、また百合っていう言葉の使い方で混乱が起こっているような気がします。特に男性と女性の間で価値観の違いが発生しがちなんじゃないでしょうか。
 ちょうど最近、mixiで情報交換していたり、先日YU-SHOWさんとチャットしてから考えた成果などもありますし、ここでちょっとぼく自身の解釈をまとめてみてもいいかもしれません。
 定義論ではないですし、こういうのはあくまで個人の主観で決めていい問題なんですけど、まぁ、みなさんの参考になればと思います。


※『マリア様がみてる』が百合の代表格……というわけではないんですが、文中では解りやすい例として挙げています

  • 百合

 この言葉はもう、発祥が雑誌『薔薇族』だったり(この頃は百合=現実の女性同性愛者)、広まったきっかけが日活ロマンポルノの『セーラー服・百合族』(この頃は百合=男性向けポルノ)だったりする上、その後は少女小説的なエス文化と融合して「お姉さまと私」や「思春期限定のプラトニックな恋愛」を暗示させる言葉に変化したりセラムン同人で使われたりと複雑怪奇な言葉ですので、もう難しい定義なんかせずに「♀×♀」の総称として使った方がいいと思いますホント。
参考:同人用語の基礎知識/ 百合

  • ソフト百合

 んで「○○百合」という様にしてカテゴリ分けすることを、そこかしこで提案しています。例えば良く見掛けるのが「ソフト百合」で、これは性的指向が未成熟(ノンセクシュアル)な女の子達が、恋愛未満だったりただ仲良くしてるだけの状態を指してるんだとしていいでしょう(そうすると大抵の女の子同士がソフト百合に見えてしまうことになるんだけど、まぁそれは見る側の楽しみとして仕方がないかも)。
 マリみてのスール関係の多くはソフト百合に当て嵌まりますし(作者本人の証言も有り)、逆に恋愛感情を持て余す過程を描いた「いばらの森」なんかは正当な(非ソフトな)百合になってる気がします。

  • ハード百合

 そこから更に恋愛感情(というかガチンコぶりというか)を押し出すと「ハード百合」っていう……でもこの呼び方はあんまり見掛けないんですよね(「ガチ百合」とかだと見掛ける)。「ハードエッチBL」の転化っていうイメージがあって使いにくいからでしょうか。
 この「ハード百合」と、後述する「ビアンもの」との境界線は非常に曖昧です。現実の同性愛と似たものなのか、そうでないかは作者や読者の主観によって変化しますから、「ハード百合≒ビアンもの」くらいのアバウトな認識でいいでしょう。
 更に性描写に踏み込むと「18禁百合」とか「アダルト百合」とか呼ばれるようになると思います。さて、性描写(肉体関係)の有無を百合の定義として挙げる人は多いですが、そうではないと思います。百合と肉体関係の関係については後述の「レズもの」も参考にしてください。

  • 乙女百合

 これはmixiの百合好き女子なみなさん(の一部)が好んで使っている表現。女の子の感性でときめく百合ってことで。だから少女小説的なエスの系譜も含むんでしょう。マリみてにしても本来はそうだったわけですし。また、女性特有の「宝塚趣味」や「やおい回路」との関連性がみられるのも特徴です。
 ソフト/ハードも関係無いですし、性表現があってもいい筈。たとえばROManticismさんはエロ有りであっても、女性的感性が中心になって描かれてるのはあきらかなわけで。
 これらの乙女百合は別に男子が楽しんでもいいジャンルだと思うんですが、語るなら女の子感性に対する理解をある程度身に付けてからの方がいいだろうっていうのはまぁあります。それは少女漫画の読み方などと同じですね。

  • 男子向け百合

 呼び方が難しいですが便宜上。*1乙女百合から派生して(あるいは独自に発達して)、百合の楽しみを男子向けにアレンジしたものってのは確実に増えてきてます。コミックやギャルゲーの影響(男が持ってる萌え感覚)に合わせて描かれた百合というか。
 甘々なファンタジーでひたすら平和なのが多い感じですが、ソフト/ハードの幅はそれなりに広い気もします(そういう幕の内弁当的なバリエーションの広さを楽しんでいるフシもあると思う)。
 女子からすると好みが分かれるみたいで、もちろん積極的に楽しんでる人も居るし、これはちょっと苦手、ってな人も居るようです(百合好き男子の中には「乙女百合原理主義」なグループってのもあって、その人達にとっても苦手かもしれない)。
 それでもこの「男子向け百合」は新興勢力でもあり、いわゆる「萌え」の世界では一種のフロンティアとして評価もできるでしょう。


 あと当然ですが、男女の中間のセンスで描かれたものっていうのもあります。ネットのマリみてパロディの一部や、ハロブロ関係のナマモノ百合なんかは中間的な印象を受けるんですけどね。これは男性の好みが女性化しているからか、女性の好みが中性的になっているからなのか……は解りませんが。

  • レズもの

 これは実は「レズビアン」の略ではなくて「レズプレイ」の略なのでしょう。アダルトビデオのジャンル名にもなっていますし、そこでは単に「レズプレイがプレイ内容に含まれてますよ」ということを示しています(「フェラ」「お尻」「コスプレ」などの表記と同列です)。
 人物の内面的感情よりも行為を指した言葉であって、だから恋愛感情抜きのフリーセックス的な肉体関係でも「レズ」と呼ばれるのだと。行為を指す以上、恋愛感情の有無を問わない世界です。極端な話、ソフト百合の世界でもレズプレイはできるわけです。
 また、レズプレイが含まれているからといって、それが百合でなくなるということはない、と思います。少女漫画のヒロインがセックスしたからといって、少女漫画ではなくならないのと同じでしょう。
 すっごくレズもののイメージが伝わってくるサイトとして自然科学研究所さんがあります(18禁注意)。

  • ビアンもの

 で、人物が同性愛(恋愛)だということを自覚している、あるいはレズビアンの人達に向けて描かれてるものを「ビアンもの」とすれば、行為を基準にした「レズもの」と区別しやすいんじゃないでしょうか。
 先述しましたが、ビアンものと百合の境界線は曖昧です。
 個人的には、リリアン女子大に進学した後の聖に恋愛話があったとしたら、それはビアンものに入れてもいいんじゃないかっていう感覚。だからといって「百合ではなくなる」わけではないんですが。
 あとセックスレスアセクシュアル)なビアン関係も勿論ありうるわけで、肉体関係の有無が基準にはならない筈です。

 これは同人活動のジャンル主張用だったり、ビアンものの柔らかい言い方だったりするので使い方が一定してません。ボーイズラブと比較する時や、本のキャッチコピー程度にしか使えなさそうな用語っていう気がします。


 うーん、うまくまとまってるでしょうか。



 余談というか私信ですが、id:maki-ryuさんが以前仰ってた「スールというシステムがだな」という意見には納得させられたものです。
 それでマリみて1巻のあとがきに今野さんは

内容が期待よりもソフトになっちゃったかも。ごめんね。やっぱり、理性が私の暴走を止めてしまうの。

と書いていたりするんですけど、この理性というのがスール制度に恋愛未満の形式を与えていたんじゃないでしょうか。
 ガチンコの百合がアンモラルだから避けた、というよりも単に小説家としての判断がリアリティを優先しただけではないかなという気もいたします。それに、読者の間口もその方が広くなって受け入れられやすいというのもありそうですね。学園ものとして読んでるティーンの全てに、同性愛話*2を読ませたいわけじゃないでしょうし。

*1:「萌え百合」っていうのが一番近いかもしれないという意見もありました

*2:補足。ここは「同性愛しか登場しない話」と書くべきでした