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ライトノベルの「流行外れ」がランキング1位 『ダ・ヴィンチ』の佐島勤インタビュー

 今月の『ダ・ヴィンチ』の「2012年上半期 BOOK OF YEAR」のライトノベル部門で魔法科高校の劣等生が一位に選ばれ、作者インタビューの記事も掲載されているということで買ってみました。


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 インタビューの聞き手と構成は、1962年生まれで「ジュヴナイルSF研究家」としても知られた三村美衣さん。


 以前、↑のエントリでも言及しましたが、『魔法科高校の劣等生』は「売れ線のライトノベル」という「表の顔」を持つ一方で、「ジュヴナイルSF」世代(年齢的には40代前後?)の人に読ませても反応のいい作品です。
 その層の人達から「面白かった」という感想を聞いたあとで「この作者の佐島さんはソノラマ文庫に思い入れがあるみたいなんですよ」と伝えると、総じて「ああやっぱり」的な納得が返ってくるのが興味深いところでした。


 そんなジュヴナイル小説としての「顔」を隠した作品でもあるので、三村さんとの取材は話も弾んだだろうなあと想像します。
 『魔法科高校の劣等生』は、ライトノベルやWeb小説といった、「現在の枠組み」の中でしか語られていない感じがしていて、むしろ世代の異なるジャンルと並べた語りの方が、個人的には読んでみたかったですし。


 というわけで『ダ・ヴィンチ』インタビュー記事の、作品紹介にあたる部分に三村さんの視点も現れていて良かったです。
 佐島先生の回答まで引用するのは避けますが、聞き手の解説部分のみ、以下に書き起こしておきます。


 この作品を「新時代」の旗手に掲げるあたりは、ちょっと書き手の欲目も感じさせるのですけど、そういう「最近のラノベとはどこか違う」という目線が、上の世代から生まれていること自体、注目できることですね。


“流行外れ”の設定で1位獲得
ラノベ新時代の旗手

 タイトルにこそ「劣等生」とあるが、主人公はむしろ非常に優秀で思慮深い少年で、昨今のライトノベルの主人公には極めて稀なタイプだ。また内容的にも詰め込み型で、1位に選ばれたものの、そういう意味ではライトノベルの流行とは大きく外れている。


 異色なのはそれだけではない。舞台は学校だが、閉ざされた学園の中だけで話は収まらず、外にいる敵の存在がちらつく。佐島さんは「あれだけ強いと、学校では戦う相手がいなくなってしまいますから」と笑った後、「学校のようなやり直しのきく場所ではなく、負けると終わる世界を描きたかったんです」とつづけた。敵が敗者を見逃さない世界、弱者が強者に勝てない世界、練習でできたことだけが本番でできる、努力と才能の裏付けなしに強くなれない世界だ。


 好きな作品を聞くと、古典SFからライトノベルまで幅広いタイトルが挙がった。


 ここで佐島先生から「SFジュヴナイルやソノラマ文庫、特に夢枕獏菊地秀行に大きな影響を受けている」というコメントが引き出されています。
 ちなみに一番好きなジュヴナイルSFは菊地秀行『インベーダー・サマー』とのことです。


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 というわけで、紙面のかぎられた文字数の中で、どちらかというと感覚的な「◯◯っぽさ」を言語化するのって難しいんでしょうけど、この三村さんと、ぼくが知る「ジュヴナイルSF世代」の読者の人達が、だいたい似通った着目の仕方をしているのが、やはり面白いですね。
(ぼくの知ってる人では「敵の存在」がジュヴナイル小説っぽい、と指摘した方もいて、ひょっとして佐島さんと三村さんの間でも似たような会話をしていたのかな? と。)