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ジュヴナイル小説としての『魔法科高校』の「らしさ」

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 変わらずというか、Web掲載時代からのファンから見ても不思議なくらい? 売れている魔法科高校の劣等生ですが、今日ぶじに4巻が発売になります。


■参考


 まぁこれだけ多くの人が手に取っているということは、読者の年代層の幅も広いのでしょうし。
 ライトノベルの主要読者層である10代の若者(→PDF)向けにブレイクしているのは、まず間違いないでしょうね。


 Web時代から、ファンの動向を眺めていた感覚からしても、元々「若い学生」が多かった印象でした。
 商業化以前は、ネット……というかブロガーの間でほとんど話題にならなかったこと自体が、「支持者層の若さ」を逆説的に証明していた気もします。


 と同時に、作者自身が自己紹介で「遅れてきたジュブナイル作家」と自称(自嘲?)していることからも窺える通り、作品そのものは「一昔前の小説のエッセンス」を現代に輸入してきたかのようなところが、本作の特異さのひとつ。

> ライトノベルなのですかね?


 ライトノベル……と言うより、ジュブナイルと言った方がしっくり来るかもしれません。
 一口にライトノベルと言っても多種多様で、読者によって好みも大きく分かれるカテゴリーですから……

魔法科高校の劣等生〜初年度の部〜 - 感想一覧


 作者もこう評する『魔法科高校の劣等生』。
 若者相手にはほおっておいても人気が出ていく作品だと思いますし、このブログで推していきたいのは、このニッチなジュブナイル小説のエッセンス」を懐かしみたい方々に向けたレビューです。


 あきらかにニッチに向けたレビューの方向性だとは思うんですが、ぼくよりも上の世代で『魔法科高校の劣等生』を気に入ってくれた知り合いがどうも多いものですから。
 実感として「これはラノベがストライクゾーンじゃない人達にも勧められるぞ」って思うんですよね。


 というか「遅れてきたジュブナイル」は作者本人が自称しているポイントなんですから、そこに突っ込んで触れてもバチは当たりませんよね。

伝わる人には伝わる「ジュブナイルっぽさ」

 実際、ジュブナイルと言われるとしっくり来る」というのは、ぼくより世代が上の読者さんから話を聞いた時に「そうそう」というノリで返ってくる答えでした。


 ところでぼく自身はというと、ジュブナイルライトノベルも「自分の世代感覚にはストライクゾーンじゃないジャンル」という認識が実はあります。
 「ジュブナイル」ブームと「ライトノベル」ブームの間くらいに、角川スニーカー文庫富士見ファンタジア文庫、スーパーファンタジー文庫などに親しんでいた世代でしたから。*1
 だから魔法科高校の「ジュブナイルっぽさ」は、なんとなく懐かしい匂いがして好きなものの……、どういうものか説明しようとしても、なかなか自分の感覚だけでは言いにくいものでした。


 そこで先日、まさに「ジュブナイル」世代の方(40代なかばの先生)と『魔法科高校の劣等生』の話をする機会がありました。
 いわく、やはり「ジュブナイルと言われた方がしっくり来る」と。
 まず「最近のラノベっぽくなさ」のひとつとして、「敵との関係がわかりやすい」というのがあるそうです。


 ……確かに、仮想敵国はわかりやすく「利権」のみで行動するし、それ以前に「◯◯連合」と名の付く国家が敵! という時点で立場が明確すぎますね。
 ジュブナイル時代のSFは架空戦記ものに似たところもあるというか、確かに「帝国vs連邦」「日本vsアメリカ」のような明白な対立を描こうとするものなのかも。
 外部の敵だけでなく、内部の敵である四葉家も、「親」というこれまたわかりやすい確執がテーマ。


 ただその一方で、「最近のライトノベル」を指して「敵の立ち位置がいまいちはっきりしなくて不明瞭なままにされることが多い気がする」という印象論?に関しては、意見を集めて確かめたいところではあるかな。
 このあたりは別の世代の読者層からの異論もありそうなので、いろいろ訊いて回りたいところですね。


 ところで「ジュブナイル」で検索していると興味深いテキストが見つかりました。こちらのサイトから。

『S.W.A.N. No.6(1988年10月15日号)』ヤングアダルト本の世界漫遊記・第6回より

 この夏、『<現代国語>解読講座』なる本を読みました。〔中略〕
 
 さて、この本では作品論の2章をさいて、「スーパー・バイオレンス」小説の評価というかたちで、菊池秀行や夢枕獏を<斬りまくって>います。〔中略〕
 もっとも、著者の世代を考えると、この評価は無理もない気がします。彼にとっては、菊池や夢枕は「スーパーバイオレンス小説」流行の波に乗ってでてきた作家にしか見えないのでしょう。でも、それは違う。
 彼らは元来はジュヴナイルの出身です。菊池秀行の初期作品『風の名はアムネジア』『インベーダー・サマー』の叙情を、夢枕獏の『幻獣少年キマイラ』の清烈さを味わってみてください。大人向きの作品については何もいえませんが、彼らはジュヴナイルの読者と真面目に相対しています。〔中略〕
 
 ですから『<現代国語>解読講座』で、菊池秀行の『魔人街』が <戦前のエロ本小説の世界に逆戻りしている><性が完全に物として描かれている><一人も人間の出てこないこの作品>と書かれ、夢枕獏『闇狩り師』が<登場人物にリアリティがなく><物語そのものが完全に現実を超越している><現実的な成立基盤を持たない想像力の自家中毒が生んだ「あやかし」の美学といったもの>と評されているのを見て、「やっぱりこういった作家の本は一冊もいれちゃいけないんだわ」とあっさり思って欲しくない。〔中略〕特にジュヴナイルについては、<おすすめ>から<悪くはない>までの出来不出来はありますけれど、マイナスの作品はないと思いますよ。
 
 かくいう私は、<血わき肉おどる>小説は好きですけれど、特にバイオレンス小説が好きというわけじゃない。殴ったり、蹴ったりしてからだがぐちゃぐちゃになるシーンなんて想像したくないし、スプラッターも嫌い、というより関心がない。その中でインパクトの強かった作品が2作あります。<バイオレンス小説ゆえに>というよりも、むしろ、<バイオレンス小説にもかかわらず>というべきなのかもしれませんね。どちらもジュヴナイルSFの傑作だと思います。


 平井和正『狼の紋章』。1971年の作品。たぶん、ハヤカワ文庫で出たのが最初で、その版で読んだと思います。ある私立中学に転向してきた謎めいた美少年、犬神明が暴力学生たちにとりしきられた学園に引き起こす波紋と彼の出生の秘密の物語です。
〔中略〕
 それから11年。1982年にソノラマ文庫から夢枕獏の『幻獣少年キマイラ』がでました。こちらは、発売から4年くらいたった頃手にとったのかな。久々のショックでした。

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 当時の少年向けに書かれた「ジュブナイル」が、当時の大人からどう評価されていたのか、というのが断片的にですが伝わってくるトピックです。


 まぁ「ジュブナイルっぽさ」というのはその「世代」にだけ通じればいい価値観であって、言葉を尽くして説明しようとしても、かえって誤解を生じさせる気もしています。
 でもどこかで、ジュブナイル」と呼ぶことで取っ付きが生まれる世代もあるのでしょう。
 もしサイレントな層が存在するなら、こういうエントリから発掘してもらえればいいな、と思ってます。

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*1:逆に言うと、ぼくと同世代の小説読みで、スニーカー文庫から電撃文庫への歴史がシームレスに繋がっている人は、電撃文庫以前の小説も「ライトノベル」と呼んで同じジャンルに括ろうとしますが、個人的に「ライトノベル」という言葉が無かった頃に書かれた小説までライトノベルと呼ぶことには大層違和感がある方です。