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プリキュアシリーズの「肉弾戦」との付き合い方

プリキュアに変身したら強くなる?

 先日更新した『オールスターズNewStage』の感想でも触れましたが、先輩勢のプリキュアと比べて、


プリキュアに変身して力はパワーアップしても、格闘技らしい格闘技がインストールされてない(っぽく見える)」


──のが『スマイルプリキュア!』の特徴のひとつじゃないかと思っています。

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いちばん子供っぽいプリキュア

 それとは別にスマプリは、快楽原則のツボの付き方や、「視聴者にかけるストレスの排除の仕方」が異常なレベルですごい、と感心しています。
 シリーズディレクターは、今まで劇場版のオールスターズDXシリーズを監督していた大塚隆史さん。

大塚隆史インタビュー『プリキュアぴあ』(ぴあ株式会社)

でも極端な話をすると、おそらく子どもは映画の内容はあまり覚えていないとも思っています。おもしろかったとか怖かったとかの漠然とした感情はあると思いますが、僕はむしろ子どもたちにとっては「映画を観に行く」という行為そのものが楽しいんだと思うんです。


子どもたちにとって映画はイベントであり、アトラクションであり、フェスティバルだと思うんです。


 ASDXシリーズとベクトルは正反対なものの、なるほど同じ監督ゆえの「児童向けエンターテイメント」だなあと毎週納得しながら観ています。
 言うならば、ASDXは「子供がミュージカルスターを見上げている」ような関係、スマプリはプリキュアが子供の感性に歩み寄る」ような関係のベクトルをそれぞれ持っています。


 明るくて気は優しいけど、取り立てて秀でたところもない主人公に、素直で社交的だけどスポーツが「万能」というほどでもないスポーツ少女に、オドオドした泣き虫で特撮ヒーローが好きな子供っぽい子。
 スペックは高くても怖がりだったり、控えめな性格であったりして、「憧れ」よりも「親しみ」の持てるキャラクターが揃っています。


 これまでのプリキュアが「特別な優秀さ」や「誰にも負けない元気さ・ハートの強さ」をどこかしら持っていたことに対して、スマプリのヒロインたちは「普通な女の子」な性格を強調していく路線のようです。
 以前の感想で、こんな意見を書いたこともありました。

 特に物足りないと感じるのは、「スマイル」や「ハッピー」というコンセプトをどう活かすかなんですが、彼女らは「スマイルチャージ!」と叫ぶことでスマイルを「チャージ(補給?)」してヒーローに変身するのであって、彼女たちが天然で笑顔の素を持ってるわけではないんですね、たぶん。
〔中略〕
 そういう「普通の子」「優しいけど強くはない子」が世界を救う物語だとしたら、何をもって悪に打ち克つのか、飛躍しうるのか、というのが五人揃って見えてくる……ような展開だと、いいですね。

新番組『スマイルプリキュア!』4話までの雑感 - ピアノ・ファイア


 この路線を裏付けるように、「守りたいものがある女の子」であれば「特別な女の子じゃなくても、誰でも」プリキュアになれるんだ、と本人たちのコトバで語らせたのが、映画の『オールスターズNS』なのでした。


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 しかし歴代のプリキュアを振り返ってみると、とびきり優秀な女の子が「伝説の戦士」に選ばれてきたことも、また事実です。



 そうしたプリキュアの歴史を背負った上で、「特別ではない女の子」(……っぽく見える「可愛い女の子」、という但し書きは要ると思いますが)を「伝説の戦士」に選んだ『スマイルプリキュア!』は、シリーズの中で新たな舵切りをしたタイトルのように感じられます。

「達人」にならないスマイルプリキュア

 と、ここまでは前置き。


 「特別ではない子ども」を主役に据えた場合、キッズアニメとしてネックになってくるのは「爽快感のなさ」です。
 なんでも才能で解決できたり、折れない根性で切り抜けられるような、「挫折しないヒーロー」の方が主人公にしやすいだろう……、というのはキッズアニメが守りがちなジンクスでしょう。


 そこを『スマイルプリキュア!』では、とにかく「楽しい」空間を提供することで、爽快感を必要としないストーリーを成立させています。
 転校してあっという間に集まる友人関係(普通のクラスメイトだけでなく、学校権力に口が利くありがたい生徒まで完備!)や、秘密基地を探し回ったり、自営業をしている友達の実家をみんなで手伝ったり。
 子供にとっては夢のようなシチュエーションを体験させることで、「なにか大活躍するほどでもないけど、楽しくなるアニメ」を実現しているのがスマプリの面白さ、と説明できるかもしれません。


 そして、プリキュアに変身してからの戦い方が、どうにもシロウトっぽい、というのは本来なら爽快感を損ないそうな要素です。


 初代『ふたりはプリキュア』のアクション描写は(監督の経歴にある)『ドラゴンボールZ』と『エアマスター』に由来するもので、特にエアマスターに登場するエアマスター摩季と、合気道使い皆口由紀がモデルと呼べる存在になっています。


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 女子中学生が、プリキュアに変身すると格闘技の達人のように戦える、というのが最初のプリキュアの魅力でした。



 『エアマスター』の余談ですが、摩季と由紀の組み合わせ以前には、柴田ヨクサルの前作谷仮面で「皆口美紀」と「皆口由紀」の姉妹が「空中殺法と投げ技」の女子格闘家コンビとして描かれており、なぎほののモデルはそこまで遡ることができます。
 ちなみに、皆口由紀はどうも最新作ハチワンダイバーにも続投しているみたいで、彼女の物語は「最愛の妹が彼氏を作ってから宙ぶらりんになってしまった姉が、孤独と餓えを満たそうとして彷徨う物語」という泣ける一面を持っています。
 そういう、「相方の欠如を埋めようとするキャラクター」が雪城ほのかのモデルだと考えると、『ふたりはプリキュア』がなぜ「ふたり」である必要があり、互いを強く求めあうコンビなのか……ということに深く納得してしまいます。


 ……余談が長くなりました。


 それに比べると、スマプリの変身はどうも「力が強くなって丈夫になるだけ」「必殺技が一発打てるようになるだけ」に見えるところがあって、格闘技らしい格闘技が身に付くわけではなさそうです。
 つまり、女の子なりに頑張って「格闘みたいなこと」をしている、というバトルの描き方に見えます。


  • 「変身すると超人的な力が出せるんですね」(第5話より)


 必殺技も一人一回しか使えず、撃った後に「すごく疲れますね」というくらいですから、まだプリキュアになりたての五人は「戦い慣れてないのに、なんとか頑張っている」子供らしさを隠していません。

「武器」で叩かないプリキュア

 制作スタッフに取材した話も参考に振り返ってみます。
 まずは初代のプロデューサー、鷲尾氏についての記事。

最初の「ふたりはプリキュア」の企画書のコンセプト欄に「女の子だって暴れたい」と書いたそうだ。その根底には幼児には、男女差がほとんどないとの考えがあったからだ。公園でも、幼稚園でも一緒になって遊ぶ。幼児世代は男女の違いなく飛んだり跳ねたりして遊びたいだろうというのが、彼の考えだった。

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 次に、『スマイルプリキュア!』のプロデューサー、松下氏へのインタビュー。

プリキュア」は「魔法」ではなく、「徒手空拳」で戦うヒロインです。女の子たちが必死に、自らの拳で敢然と悪と戦っていくところは、他の女の子向けアニメにはないものだと思っています。

アニメ質問状:「スマイルプリキュア!」 キュアピースの決めぜりふに苦慮 - MANTANWEB(まんたんウェブ)


 徒手空拳で戦うヒロイン。
 武器を使うことの多い、男の子向けの特撮ヒーローに比べれば、むしろプリキュアの方がワイルドで、パワフルに思えます。
 しかしスマプリのように「格闘技を使えないプリキュア」が徒手空拳(=丸腰)だと、単純に「戦闘に特化していなさそう」なイメージが勝る気もします。


 考えてみれば、武器を持った戦士の方が明らかに物騒であって、丸腰でいる方がよっぽど弱々しいんですからね。

素手の暴力」に対する各作品の向き合い方

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 『プリキュアぴあ』のスタッフコメントによると、5までのプリキュアシリーズは素手で殴ると痛々しそうだから」という理由によって、こぶしをグローブで覆うデザインにしていたそうです。
 「暴れたい」という子供の欲求に応えようとする点では男女分け隔てなくても、暴れた結果、「敵を殴らなければならない」という描写については、最低限の身体性への配慮があったのでしょう。


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 特に『Splash☆Star』は、女の子の「生身」を暴力から遠ざける工夫が最も顕著なタイトルでした。
 初代のようにすごい格闘技を使うでもなく、全身をオーラ状の光でコーティングして、そのオーラをぶつけたり、オーラで全身をガードする演出で戦っていたプリキュアです。
 つまり、初代のプリキュアは生身で殴れるくらいフィジカルが強かったし、生身だけで敵の攻撃に耐えきるタフさを与えられていたのですが、SSのプリキュア「オーラコーティングが無ければ肉体的にはただの女の子のまま」として描かれていたんですね。
 SSは第2話の、ふたりがほっぺを膨らませながらふんばる描写だけでプリキュアになっても生身の女の子という中身は変わらない」ってことが一発で伝わってくる演出が素晴らしかったと思います。



 続く『5』シリーズでもグローブは引き継がれますが、5はどちらかというと必殺技の強さで戦っていたイメージがあります。
 あくまで「浄化の技」だったそれまでの必殺技に比べて、「物理現象としてのダメージ」を連想させる見た目の必殺技は、肉弾戦とは別ベクトルでパワフルなバトルへ進んでいたんじゃないでしょうか。


 こうした「素手で直接殴らない」ルールを破ったのが、プロデューサーが交代した『フレッシュプリキュア!』以降。
 フレプリのスタッフは、特にこれといった意図もなく「素手のコスチューム」をデザインしたようですが、フレプリのプリキュアたちは見た目も大人っぽく(ガタイが良く)、普段からダンスで身体を動かしてますから、格闘技をしていてもスタイリッシュに映るのが功を奏したかもしれません。
 そういえばフレプリは、ジャージ姿で運動している場面のイメージがやけに印象に残るプリキュアでした。


 その次の『ハートキャッチプリキュア!』では、演出的にはSSのオーラバトルとフレプリの素手格闘の間くらいなのですが。
 作画に『エアマスター』の馬越氏が参加しているだけあってか、歴代で最も「敵を殴ることに積極的なプリキュア」という印象が強かったです。
 犠牲者の民間人であるデザトリアンですら必要以上に殴って蹴って、怒っては敵と殴り合いばかりしていた(最強の必殺技もパンチ技だったりする)、とにかく好戦的な女の子を見ることのできたプリキュアでした。


 そして前年の『スイートプリキュア♪』はフレプリの演出レベルに戻った上で、肉弾戦はそれほど重視せず、豊富な必殺技(浄化技)のバンクの美しさで魅せる方向に進んでいました。

「自分の手で殴りたがらない」女の子感覚

 どうも「スマプリのプリキュアたちは、必殺技は一回しか撃てないのに、なぜすぐ使っちゃうのか?」という点が気になる人もいるようです。


 あれはなんか、子供の感覚的には……、怖い動物とか、虫とか、気持ち悪いモノ全般に対して、「手足で触れるよりも棒か何かでつつきたい感覚」にも近いかもしれないなあと考えていました。
 スマプリは、力仕事はオスのマスコット任せで、とどめをさすときもおしりの体重で間接的にプレスするだけですからね(6話)。


  • 「乱暴なこと」は男の子に任せて、敵には直接触れない6話


 おしりでプレスは女の子らしすぎるとしても、飛び蹴りしたように見えてシーソーのテコで敵を飛ばすだけだったり(8話)、直接叩かずに缶をぶつけて攻撃したり(11話)。
 必殺技にかぎらず、「間接的に攻撃する」のがスマプリのバトル描写の基本になっています。


 初代のスタッフが「素手で殴るのは痛そうだからグローブを」と配慮したときや、SSでオーラを纏わせたとき以上に、「女の子が手や足を出す」ことへの忌避感が強められている感じです。
 8話なんか特にそうで、体ごとぶつかったり(それもタックルという見た目ではなく、転がってぶつかるだけ)、敵にしがみついたり、耳(?)で戦ったりするだけ。一応、素手で殴ろうとするマネはするのですが、どれも避けられて空振りに終わっています。
 結果、一度もこぶしや足で敵を傷つけるバトルが無かったという。


  • 手足を出さないで終わる8話


 9話では、キュアピースがアカンベェの鼻頭に飛び蹴り一発のみ、10話ではキュアサニーが腹パン一発のみ決めているので、ちょっとずつ「殴る蹴るすることへの抵抗感」が薄れていってるようにも見えますけどね。


 そういう変化も含めて、『スマイルプリキュア!』はシリーズ中で一番、「普通の女の子が肉弾戦に触れる」という過程を、等身大の感覚で描いているプリキュアじゃないかと思うわけです。


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