急激な展開が与える「やる意味なかったじゃん」というストレス
つまり、お話のフォーマットを「定着」させる前からクリフハンガーで「話を転がして」いると、いつまでもベースとなる部分を飲み込んでもらえなくて、「話が進んでない・始まってもいない」という実際のストーリー進行とは逆の評価をいただくことになるんでしょう。
先日のエントリに書き漏らした話を補足すると、「ドラマを性急に転がす」ことによる観客へのストレスは、「せっかくやったことがなかったことにされる」ストレスだと表現できます。
パワーアップしたと思ったらすぐに対抗策が出て負ける、コネを作ったと思ったら裏切られる、守りきったと思った苦労がすぐに台無しにされるというのは、ギャップの驚きよりも「じゃあ意味なかったじゃん」がまさるということです。
(※追記:「必死で身につけたパワーよりも強い戦力が簡単に加入する」というのも「意味なかったじゃん」に加えられるでしょうか。)
「なかったことにされる」「意味なかったじゃん」は匙加減が難しくて、日本の漫画でぼくが引き合いによく出すのは『野望の王国』ですが、
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……これは「強力な味方をつけたと思ったらもっと凶悪な敵が現れてすぐに抹殺されてしまう」というパターンが繰り返される漫画です。
それが「作品のパターン」として魅力があるから面白いと言えるのですが、このノリをうまくマネして面白くするのはなかなか難しいと思います。
板垣恵介の『グラップラー刃牙』なども「キャラクターの強さを解説する」ことが負けフラグに繋がる……というワンパターン(お約束)を成立させているのですが、「じゃあわざわざそのキャラを持ち上げた意味ないじゃん!」と読者をガッカリさせしまうかどうかは紙一重だと言えます。
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極論すると、観客にストレスを与えないストーリーというのは「今までの行為が無駄になるということが起こらない」ストーリーだとも言えるでしょう。
なので、ジャンプ漫画は安全な手法をとって成長のインフレ、展開のエスカレートを起こすことになります。
ジャンプ漫画で育った読者にとっては、それが普通だと思ってるから余計に「やった意味がなかったことにされる」展開に耐性がない。
意味がなかった、というのは上っ面の話で、実際はやった意味がなくなることはないのだけど、さりとて上っ面の印象というのは先行しがちなので……という問題ですね。
「物語のベース」を守ったまま、その延長線上の進化を続け、怪我で後遺症を残すこともなく、欠員も出ないバトルが求められるのですが……それはそれで匙加減が難しいだろうことは想像に難くありません。
ストーリーの演繹を強調するか、帰納を強調するかでも匙加減は変わってくると思います。
帰納法の語り方のひとつである「隠蔽された謎を徐々に開陳する型」のプロットの場合、どんでん返しもやりやすいイメージがありますね。
そこで間違っても「ぽっと出の新キャラに全部台無しにされた」とか「後付け設定で全部ぶち壊した」などと思わせてはいけないわけです。