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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

感情移入できる絵の描き方

 19日の記事ではお茶を濁すというか、割と煙に巻くような書き方をしたんですが、個人的にも絵を描く立場から「いい絵に必要な条件」というのは結構考えていたりします(萌え絵に限らず、美術全般に言えることかもしれませんが)。
 要は、原義的な意味での「感情移入」──美術用語における「感情移入/Einfuhrung*1──を誘えるかどうかで善し悪しを判断することができて、それは「架空の存在感を、最少の情報量でできるだけ多く与える」ことにかかっている、と一言でまとめてもいいかもしれません。


 実際には「絵は、線を描くものじゃなくて、線に囲まれた白い部分を描くものなんだ」*2ということを念頭に置くことで実践に近づけるんじゃないでしょうか。
 描く側の意識から観る側の意識に視点を変えれば、「人間は描かれている部分じゃなくて、描かれていない部分に感動するんだ」と言い換えることもできると思います。


 萌え絵のパラメータを研究するということは、つまりそういうことです。例えば美少女の顔を描いてみようとした場合、「瞳の描き方」に凝って研究するのも大事ですが、「バーチャルな存在感のある輪郭」と「輪郭の中に目鼻口を置くことによって生まれる残りの空白のバランス」を微細なレベルで感得できるかどうかがキモになってきます。この「空白」を細分化すれば、

  • 「両目(眉毛)の隙間」
  • 「両目の下まぶたと鼻の頂点を結んだ三角形」
  • 「おでこ(両目の上まぶたから髪の生え際までの曲面)」
  • 「顎のエラ(片目の下まぶたから顎先にかけての空間。形は勾玉型)」
  • 「目尻から耳の付け根までの空間」
  • 「唇の厚さ」
  • 「鼻梁」

……などをどう活かして存在感を与えられるか、というセンスが問われてくるわけです(経験則で言えば、その空白が自然に広く取れている程良い。立体感を錯覚さえできれば、デッサンは狂ってて良い)。
 絵の初心者は、瞳の描き方ばかり練習してしまいがちですが、初心者を脱皮する為に、本当に練習しないといけないのは「空白の描き方」(陣取りゲームで、線で白地を囲んで陣地を作るような意識の持ち方。無垢素材をカットして彫刻を切り出していくような心構え)なのだと思います。


 まぁここから先は図解とかしないと説明しきれないので、この話は中途半端に終わり。
 こういうことは、絵を描く人なら誰でも意識的にやっている「基本」だと思いますが、美少女絵というのは、存外にその基本、原点に基づいた、素朴な魅力を持ったものが多いのです。奇形的なディフォルメや先鋭化されたパーツばかりではないという意味で、絵の原点に立ち戻ることも重要だと考えられます。

最後に

 具体的に解りやすそうな例示をひとつ。「キャラクターの胸の形」を誇張したい時に「ストライプの上着」や「縦に縫い目が出るセーター」「プリント入りのTシャツ」「胸ポケット付の制服」なんかが効果的に利用されたりするんですが、あれなんか、最少の情報量で存在感を与えられてる、いい例ですね。ボディペインティングや刺青なんかが、その応用例だと思います。
 そういう、存在感のある表現が核となって枝葉と組み合わされて、いかに絵全体に行き渡せられているか否か。絵を観る人間は、そういう基準で鑑賞しているような感があります。


 特に、キャラに萌えたい人達は「二次元の中の実在感」に思い入れようとするものですから、バーチャルな存在感というのは、まさに最重要課題として挙げられるわけですね。*3だから肌の肉感、衣服のディティールの細かさ、陰影や重力の(バーチャルな)リアリティなんかはかなり重視されてます。

*1:リンク先の説明では日本の「わびさび」は感情移入説の範疇に含めないことになっていますが、ワビサビも感情移入の形を取っていると思います

*2:カラーイラストの場合は主線で切り取らない部分

*3:うーん、普通に「マンガ記号論」みたいな話になってきたなぁ