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『カンフーハッスル』

izumino2005-01-06

 『少林サッカー』に続くチャウ・シンチー監督・主演作品。
 これを「ボンクラ映画」と位置づける評価にぼくは抵抗します。これって「少年の成長」を一貫してきっちり描いている物語だし*1、映画的にもB級以下どころかめっちゃ良く出来てるやん。……いや、確かに「良質なボンクラ映画」というのは概ね「少年(もしくはダメ人間)の成長」をきっちり描いているし、映画的にも実は完成度が高かったりするのだけど……その上で、ということですよ。ボンクラ映画(もしくはただのアクション映画とか、ギャグ映画とか)としてのみ評価して思考停止するには勿体ない映画です。


 初手からの感想は、『少林サッカー』の時と比べてシンチーのディレクティングが無茶苦茶上手くなってること。まぁ、シンチー自身の力なのか撮影監督その他のスタッフの力なのかは解らないんですが、とにかくハリウッドやヨーロッパの映画なんかを凄く研究した上で作ってるのが伝わってきます。CGの使い方も、CG特有の「嘘っぽさ」を良い方向に活用していて好感が持てましたね(他のアクション映画はCGを「リアルっぽく」使おうとするから余計「嘘っぽさ」が目立つ)。
 映画的にも状況説明の段取りがクドい程解りやすかったり、シチュエーションの二重化を何度も行ってたりととにかく丁寧。
 アクションに関しては……これ、アクション・コレオグラファーとしてのユエン・ウーピンの弱点をサモ・ハンが支えてるような感じで動きに見飽きません。


 ああそれと、シンチーの過去作品の特徴だった「起承転結の承の部分に観られるダルい展開」「(美人女優のブサイク化などの)悪趣味なギャグ」が脱臭されているのも評価していいかな。特に「美人女優のブサイク化」はシンチーのポリシーだったようにも思えたんですが、客を不快にさせる描写だというのは本人も解っていた筈で、本人のポリシーよりも客の快楽原則を重視している時点で監督としては正しいと。
 今回、シンチーをタランティーノと並べて見る人は多いと思うんですが、シンチーはむしろ、ハリウッドの映画監督の中ではブレット・ラトナーに近いハートを持った監督だと思います。勿論監督自身はマニアックな映画オタクなんだけど、自分の趣味を殊更に出しすぎたりはしないし、何より「観客を楽しませる」ことを第一に考えている。パロディや引用にしても、ただマニアを満足させるのではなく、観客に伝わるかどうかを心掛けた演出になってるってこと。あと、マイノリティ層の役者にチャンスを与えたがる監督という点でも共通してるでしょう。個人的にラトナーは凄く好きな監督なので、「シンチーはラトナーに近い」というのは高評価なんです。
 それとはまったく反対に、映画を自己満足のオナニーや知識のひけらかしに終始させるのがタランティーノなわけですね(だから好き、っていう人も居るでしょうが)。


 最後に。パンフレット読んで知って笑ったのは、チョイ役としてユエン・チョンヤン(ウーピンの弟で、同じく武術指導家)が出演してたって所かな。なんて無意味なキャスティングだ(笑)。

*1:少年漫画論的に言えば、ラストシーンで「主人公の成長」がちゃんと観客の立場に受け継がれる点が評価できて、しかも主人公とは異なる道を辿らせるような結論になってるのが偉いんですよね。参考→赤松健論の<ラブひな編