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セクシュアル・マイノリティに「異常」も「治療」もない/『ジャンプSQ.』掲載の漫画について

 今月、「マンガボックス」で連載されていた漫画「境界のないセカイ」の連載中止と、講談社からの出版中止というニュースを巡って、様々な議論が交わされていました。詳細は上記エントリをご参照ください。


 このマンガボックス/講談社の判断が過敏すぎると批判されている一方、対照的に映るのが集英社の『ジャンプSQ.』最新号に掲載された作品です。
 レインボー・アクションが「境界のないセカイ」について、「この作品の性に関する描写に、他の作品と比べて特段の問題があるとは思われません。」と言い切るのに対して、まさに「問題のある描写がある」という指摘を受けています。

だが作者の「意図」しているであろうテーマ性とは裏腹に、結果として本作は《ゲイ治療》の“可能性”を肯定している。

《ゲイ治療》の“可能性”を肯定する「ディストピア」は作者自身の差別意識の反映にすぎない〜きただりょうま『μ&i みゅうあんどあい』(1) - 有限ノ未来 limited future
  • なお、これらの批判がTwitterでなされた後、作者は自身の掲載告知Tweetを削除しているため、批判自体は作者に届いているようです

 自分は、このエントリを先に目にしてから『ジャンプSQ.』4月号を読んだことになります。
 全体を読んでみるまでは話題にもできないと感じていたのですが、やはり実際の描写を確認してみると、細部では「百錬ノ鐵」さんの記事と異なる読み方もできたので、その部分についてだけ言及しておきたいと思います。


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 というのは、作中において「治療」という言葉も出ないし、その言葉が意味するニュアンスもないということです。
 劇中における政府の建前としては「セクシュアル・マイノリティの更生」を謳っていますが、それを実施する手段として準備されているのが「再教育プログラム」と呼ばれるマシーンであって、その機能の説明では「治す」ではなく「作り変える」と呼ばれ……明らかに精神改造を行うマシーンとして読者に見せています。


 つまり「異常から正常へと治す」という治療の文脈はそこにはない。
 そして、公式な発表では「更生」を謳っているのにも関わらず、その実態が精神改造なのですから、(異性愛者の)登場人物たちもすぐにその危険性は感じ取って心理的に反発もしています。


 さらに、同性愛者だろうが異性愛者だろうが、強制的に理性を崩壊させて生殖行為を行わせるマシーンなので、異性愛者にとっても非人道的装置だと捉えられます。
 異性愛者に異性愛をプログラムしても結果的に変化しないのでは? ということもなく、単に「見境なく異性とセックスさせる」という機能なので、自由恋愛(=自由意志)を踏みにじる点では性的指向の区別がないとも言えます。


 であるからして、これはプログラムごと破壊せねば……という次回へのヒキに繋がっていくのですが、構造としては「精神改造なんて非人道的だ」という反発から異性愛者であってもこの精神改造は危険だ」という反発へとシフトし、最後には「異性愛者の立場から再教育プログラムの危険性を訴える」という展開だと言えるでしょう。


 それはつまり、「少数派の気持ちになって反対するよりも、自分たちにとっての危険を考えた方が反対の動機となる」という、非常にエゴイスティックで、乾いた人間観が見て取れるストーリーです。
 単に少数派を思いやって反対します、という一方的善意だけで終始しないのはむしろ妥当な描き方かもしれません。


 しかし、サービスカットに感じられる「お色気シーン」の多さから、この漫画が「ヘテロ男性向け」のエッチなウリのある漫画として、ヘテロセクシュアルな観点と需要から描かれているのは間違いなく、そして「マイノリティに読まれる」という視点が一貫して欠けているのも確かだと思います。
 特に「百錬ノ鐵」さんで指摘されている「Aセクシュアルへの無理解」などは、さも同性愛者に配慮するような「素振り」によって、かえってなおざりにされやすい要素だということは言えるかもしれません。


 以上のような読み取りをした上で、過剰批判にならないよう、適切な批判・指摘が加えられればよいと考えた次第です。