小説『魔法科高校の劣等生』の、愛すべきその世界(その1)
当ブログでも大プッシュ中のジュブナイルSF小説、佐島勤『魔法科高校の劣等生』第3巻が発売になりました。
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Amazonの売上ランキングでも文庫総合で一位。
書籍全体でも、明日発売の『空の境界 未来福音』*1と争うほどの位置にいます。
また刊行と同時に『月刊Gファンタジー』でのコミカライズも発表され、順風満帆にメディア展開しているようです。
(電撃文庫のコミカライズ自体は珍しいことではないですけどね。)
この人気を支えているのは、担当編集者が「原作」と位置づけている……Web版『魔法科高校の劣等生』のファンたちなのでしょう。
2008年10月12日から二年半近く、ひと月ごとに数回の更新をコンスタントに続けただけでなく。
読者感想の書き込みに応える作者コメントの面白さも含めて、抜群のエンターテイナーぶりで固定ファンを着実に獲得してきた作品です。
ぼく自身は去年の夏くらい……、すでに今あるエピソード全体の八割が執筆済みの時点で『魔法科高校の劣等生』の連載を追うようになったのですが、その上でリアルタイムに感じていたのは、
物語が進めば進むほど面白さが増していく!
……という麻薬的な娯楽性の高さでした。
もちろん、10日につき一度はストーリーの続きが読めるという、まるで週刊誌のようにスピーディな配信スタイルにドライブ感を覚えていたから、という環境的な理由もあるでしょう。
それにWeb小説の読者というと、(そのユーザー層の厚さに反比例して)ネットではオープンに主張する場を持たない人たちで占められていましたから、主にクローズドなコミュニティで共有されていた感動だったと思います。
これから文庫版で読み始める人たちに対しては、いささか「気の長い話」に付きあわせなければならない部分もあるのですけど、『魔法科高校の劣等生』が「新しいエピソードは必ずそれまでの期待を上回って展開される」ということは自信をもって約束できます。
……そういえば、この「大多数を占めるサイレントマジョリティな読者の膨大さ」こそが、作者をよりエンターテイメントに向かわせる原動力となり、娯楽性を確かなものにしていたのではないか……というのも、リアルタイムに肌で感じていたことでした。
職に繋げる意図もなく、趣味ではじめたものであるに関わらず、明らかに趣味を超えたエンタメ精神(言い方を変えれば「プロ根性」)に満ちている……。
そんな作者の「面白さを届けたい」という静かな熱気は、多くの読者が味わっていたのではないでしょうか。
「あなたにこそ読んでほしい」というセールスポイント
ただ、刺激的な面白さがあるだけに、「読み手を選ぶ」「万人向けではない」という側面があります。
それは作者自身が自称もしているポイントですし、ファンの多くもそう認識しているところではないでしょうか。
(※余談ですが「読み手を選ぶ」というのは便利すぎる言葉で、現実的にいって「読み手を選ばない」物語などはSFアクション小説という時点で不可能でしょう。それに、もし「日本人の半分が好きになり、もう半分は苦手となる」という命中率の作品を仮定してみれば、それは間違いなくベストセラー小説になりうるメジャーさが保証されているようなものです。)
例えば友人のレスター伯さんは、自分自身と共通する感性の読者を狙い撃ちしようとして「ヤングアダルト世代」の「アラサー」に向けた布教エントリをアップしていました。
その定義にはぼくも含まれるので、個人的には「まさに」といったインパクトのあるエントリでした。一読をお勧めします。
しかしWeb版のネイティブな読者には、十代の学生層が多いように見えるのもまた事実。
この「実際のヤングアダルト向け」と「かつてヤングアダルト小説を愛好していた世代向け」の両立を可能にしているのは、何か。
それは作者自身が心の底から「ヤングアダルト小説」というカテゴリーに愛着を持ち、理想的なヤングアダルトを自ら目指そうとした結果なのではないか、と感じています。
ところでついつい、ぼく自身なじみのある「ヤングアダルト小説」というフレーズを用いてしまうのですが、作者の佐島先生は「ジュブナイル」という用語を好んで用いるところから、この人はぼくらより更に上の世代なんだろうな、と考えています。
以下は感想ページで読むことのできる、読者に向けた作者コメントから。
似非科学は、最近傍流なのかもしれません。だから逆に新鮮なのかも。
20世紀の、ライトノベルが「ジュブナイル」と呼ばれていた頃は、この手の似非科学が主流だったんですが。
もっとも「ウィザーズ・ブレイン」とか「9S」とか「アスラクライン」とか、疑似科学ライトノベルも決して廃れてはいませんが。
ライトノベル……と言うより、ジュブナイルと言った方がしっくり来るかもしれません。
一口にライトノベルと言っても多種多様で、読者によって好みも大きく分かれるカテゴリーですから……
文学的な挿絵よりライトノベル的なイラストが似合う作品だとは思いますけど(苦笑)
尚、私は結構な年ですよ(^^;
ライトノベルの新人賞には年齢制限で引っ掛かってしまうんじゃないでしょうか(^^;;
> 説明の多さ
これは本当に匙加減が難しいところです。
ライトノベルというよりジュブナイルを想定して書いているんですが……だからといって読みやすさを無視するのは邪道のような気がしますし。
ワクワクするお話、を書きたいとずっと思っています。
シニカルだったりディストピアだったりするのは私の性根がねじ曲がっている所為で、心掛けだけでは如何ともし難いんですが(^^;、少年少女冒険小説やジュブナイルと呼ばれていた頃から形を変えながらも受け継がれてきた「ワクワクする小説」が書けるように精進したいと思います。
ちなみに和製英語としての「ジュブナイル」と、外来語である「ヤングアダルト」は内容的にほぼ同義です。
大人でも楽しめる子供向け、ちょっと背伸びしたい若者向け……。
その程度のユルいニュアンスの言葉ですが、ぼくの世代で読まれた小説は「ヤングアダルト」と呼ぶが当たり前で、「ジュブナイル」はもっと過去の作品だというイメージでしたね。
事実、ぼくやレスターさんよりも上の世代である山本天志さんや菅野博之さんからも『魔法科』にハマったという意見を聞いたものです。
ひょっとしたら、40代以上の年代層にもシンパシーを与える作品なのかもしれません。
(※ちなみに山本天志さんと直接会ってお話したとき、「ジュブナイル小説と言われると確かに一番しっくり来る」と腑に落ちたように仰っていました。)
さて、ここから具体的な「セールスポイント」の話に進みたかったのですが……。このエントリが長くなってきたので、「その2」に続きます!
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