ノイタミナ『ギルティクラウン』のハードコアでリアルな中ニ性
ギルティクラウン [ GUILTY CROWN ] Blu-ray BOX
Ustで語ったり、Togetterでまとめたりしているのですが、『ギルティクラウン』で描かれる中二がハードコアでリアル。
主人公が17歳だから高校生でしょう、というツッコミは忘れるとして、「中高生が期待している妄想」としてこれ以上ないほどリアル!
『ギルティクラウン』のメインライター・吉野弘幸と、サブライター・大河内一楼というタッグは、『コードギアス 反逆のルルーシュ』の脚本のメインとサブが入れ替わった布陣です。
『コードギアス』では戦争や国家情勢といったハードな「本筋」を大河内が担当し、若者のリビドーに直結した「末節」を吉野が担当していたように思えますから、今回はその逆……吉野がリビドー全開のストーリーを描きつつ、大河内が「骨」を支えるといった役割分担になってるんじゃないでしょうか。
やる気も実力もない中高生の欲望
その『コードギアス』の監督をしていた谷口悟朗は、「10代の学生の欲望」として「やればできる俺、という万能感」を指摘していました。
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しかし『コードギアス』や、その同系統と言える『DEATH NOTE』の主人公(=ルルーシュと夜神月)は、「そのままエリート大学に進んでいれば普通にリア充になれるイケメン」であって……、等身大の学生の投影ではまったくありませんでした。
確かに、偶然ふってわいたスーパーパワーによって神にも悪魔にもなりえる「特権者」と化した彼らですが、別にスーパーパワーと出会えてなくても元からスーパーマンなのでした。
血筋や家柄が良かったり、重大なトラウマを抱えていたり、強い意志を備えていたり。
彼らを「10代の若者そのもの」と位置づけるよりはむしろ、「実際にデキるエリート」だった彼らがスーパーパワーに取り憑かれ、子供じみた理想や野望を掲げはじめることで、「平凡な学生」の妄想に近寄ってきてくれる……、と言った方が正しいでしょう。
しかし『ギルティクラウン』の主人公、桜満集はリアルに「平凡な学生」なのです。隠し設定は抜きにして、表向きだけを見るならば……ですが。
万能感はあっても万能「感」しかないのです。
それどころか「無力感」が先立ち、「万能感」を抑圧してしまっている時点で、ハードコアな「やれればできる俺」(=「やれないからできない俺」の裏返し)だと言えるでしょう。
あるいは、ルルーシュ(&夜神月)と桜満集をこう区別することもできます。
「やればできる俺」と思っているが実際はやる気も実力もない学生の客層に対して、「やる気も実力もあるキャラクター」を与えて願望充足を図ったのが『DEATH NOTE』や『コードギアス』だとすれば。
そのまま「やる気も実力もないキャラクター」を描き、物語上で「やらなきゃいけない状況」と「やればできる力」の両方を与えていくのが『ギルティクラウン』だと言えます。
「カモがネギをしょってきてもおかしくない」選民意識
ある日いきなり、いつも動画で見ているアーティストの美少女が現れて、守ろうとしたら、強い武器を与えてくれる。
そんな「カモがネギしょってきた」ような幸運。
しかも、その恵まれたシチュエーションにあやかれる特権性を支えている根拠が、
「動画共有サイトでPV動画を観るのが好き」
「趣味で動画職人をやっている」
……という、「俺は他人とは違う趣味を持っているから」というのがリアルに中高生すぎます。
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これって例えば「洋楽を聴いてるから、もしかして有名ロックバンドにスカウトされるかも」「カンフーが好きだから、もしかして武術の達人が師匠になってくれるかも」みたいな、受け身の選民意識そのまんまですよね。
一般人とはちょっと違う趣味が好きだから、というだけの理由で、目の前に「強い武器をくれる美少女」が現れてもまったく不思議ではない、という世界認識。
まぁ、それが願望の具現であることをあからさまに描くのもヤボなので、主人公に「ウソでしょ?」と拒ませるわけですが、観客の目から見たメタなレベルでは、
「ああ、俺が中高生の頃なら何の違和感もなく受け入れていただろうな」
「いつかそんなことが起こるんじゃないかと思ってたな」
……と思わせるガチなリアルさが『ギルティクラウン』にはあります。
(※まぁ、ここでいう「俺」というのも筆者が捏造した過去の記憶によるもので、10代の記憶なんて本当は忘れてるんですが、それでも普遍性のある「10代らしい意識」と言えるんじゃないでしょうか。)
リアル中二とファッション中二
『ギルティクラウン』がなぜここまでハードコアと言えるかというと、「大人になっても引きずるような中二病」や「中二っぽい設定」だけで作られていないからですね。
「大人の考える中二」はファッション中二であり、「中二のリアルな願望」とイコールではない、ということです。
また、大人が憩いにするようなジュブナイルでもない。
主人公にサブカルへの憧れがあって、「ヒロインの美少女と反体制組織のリーダー」がセットでやってくる、という構図は『交響詩篇エウレカセブン』と似ていますが、エウレカセブンではヒロインのエウレカにかぎらず、リーダーのホランド、保護者であるじっちゃんの内面が序盤から浮き彫りにされていて、「大人から眺めた少年性」で物語が進んでいきます。
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『セイクリッドセブン』も「主人公にヒロインが力を与える」タイプのサンライズアニメでしたが、こちらも「ヒロイン側の視点や都合」でお話が展開するところがあって、しかも主人公の性格も枯れてましたからね、大人っぽい(高校生っぽい?)動機で作られたアニメになってましたね。
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『エウレカセブン』に話を戻すと、第二期オープニングにHOME MADE家族の「少年ハート」を流していたという時点で、その「大人のジュブナイル感」が遺憾なく象徴されていたと言えるでしょう。
You gotta remember 今も 夢のかけらを手に
あの頃のように 光はなつ少年のハート
「将来の夢」の欄に書いた あの頃の俺から何年経った?
現実と理想の狭間揺らいだ 情熱の炎も消えかかった
覚えていますか?昔は確か かすかな希望に全力を出した
明日のために生きていました その気持ちどっか忘れてないか?
青春に期限なんてない 探究心に年は関係ないと思うよ
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少年ハート
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別に「大人のジュブナイル」が「ハードコアな中二」と比べて劣るってこともなくて、どちらも魅力的なコンセプトなんですが、『ギルティクラウン』の一〜ニ話では見事にヒロインやリーダーの中身が見えないように描かれていて、これぞまさに「少年の視点から物語が始まるアニメ」だな、ここまで徹底されると意外と新鮮に映るものだな……と、心を動かされることしきりなのです。
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