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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

その感情移入は自己投影に近いかどうかを見分けてから語る

 感情移入という言葉は広い意味を持つが、その曖昧性ゆえに、対立的な事柄であっても同じ「感情移入」で説明できてしまうところがある。
 その事柄の違いを見分けてから(作品の感想などを)語ろうという話を今からする。


 言い換えるなら、「共感や自己投影」と呼ばれる心理も感情移入と呼ばれるし、逆に「同情やマインドリーディング(視点取得)」の能力も感情移入で説明することができる。


 しかし一般的には、客観的な他者観察よりも、主観的な自己投影(同一化)を指して感情移入と呼ぶことが多いだろう。


 ただし、区別できずに混同する人も多い。


 自己投影に近い意味で語られている場合、「読み手が感情移入するキャラクターの感想」がさほど現れず、むしろ主に「読み手から見られるキャラクターの感想」が現れやすいのは自然だ。
 これは一部の恋愛ゲームでも考えてみれば基本的なことなのはずが、「よく話題になるキャラクターこそが感情移入されているキャラクターなのだ」とみなす人もいるから感想をややこしくする。
 それは逆で、ただの自己投影をしているキャラクターの話なら普通はしたがらない。


 自己投影の対象が「主人公」と呼ばれるケースもあるが、感情移入をしても個性や魅力を感じるとはかぎらないし、共感できているときほど「個性」に注目しなくなるとさえ言える。
 主人公に個性や魅力を発見することが、その主人公を観察することに繋がるという仕組みについては、9年前にもみやもさんが記事にしていた。

重要なのはプレイヤーに主人公と同じ物を見せることではなく、物を見て同じことを考えているかのように錯覚させることなのです。


 とはいえ、やはりもともとは製作スタッフという他者の手で作られたキャラですから、完全にはプレイヤー側で主人公の思考と同調しきれない時がある。そういう時に「リアルの俺だったら絶対こんなことしない(出来ない)ぞ、何やってんだこの主人公」というギャップが生じます。そのギャップこそが「俺とは違う、この主人公自身の個性」が成り立つ瞬間でもあり、それはゲームを進めていくなかで実は頻繁に発生してるんですね。

身辺雑感/脳をとろ火で煮詰める日記: あらゆる「主人公」には個性がある


 みやもさんの記事では「TLSSの主人公」の個性にも触れているが、例えば「話題にならない恋愛ゲームの主人公」と「話題にされまくるアマガミの橘さん」のどちらがより自己投影されているかといえば、もちろん話題にならない主人公の方だろう。


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 その一方でプレイヤーは、観察対象でもある橘さんに感情移入することだって一応できる。
 だがそれは共感/自己投影を行っている度合いより、同情/マインドリーディングの度合いが優った方の「感情移入」だと考えてよい。

「主人公に自分を重ねない、共感しない」という見方によって、かえって好感度が上がることだってあります。
 例えば、大抵のラブコメ漫画は「読者が主人公になって恋愛した気分を楽しむ」という側面があるでしょう。
〔中略〕
 その反面、「この主人公は男として好感が持てる!」という風に、同性の主人公を「自分とは別人のキャラクター」として支持する読者がたいてい現れてくるものです。

「主人公の特徴だけで作品を特徴付けたつもりになれる言葉」の過ちと罠 - ピアノ・ファイア


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 そういえば『姉ログ』の弟キャラは、雑誌掲載時の人物紹介欄で「靄子の弟、それ以上の情報は不要」と常に書かれていて笑みを誘うのだが、それは「情報がない」のではなく、「情報を語ってしまうと実は個性があることがバレてしまう」というタイプの主人公だから(主人公というかメインヒロインに対する脇役と言うべきか……)、と考えても納得がいくだろう。
 実際、優秀で人柄がよくてしかも鈍感という非凡な(しかしテンプレ的な性格の)男子なので、自己投影するのか観察するのか、ギリギリのバランスが試されていると言える。その点でも面白い立ち場のキャラクターだ。