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『ときメモ4』と『生徒会の七光』がゼロ年代最後尾のリリースであることの意味

 例によってタイトルはただの思いつき。

izumino 生徒会の一存』はときめも4と同じ時期の作品だと思うと面白いですよね link


 ↑をポストしたのが去年の12月16日。この時点では、『生徒会の一存』のアニメ版を11話まで観てただけで原作は未読でした(ときメモ4は2周くらいクリア済み)。

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 ↓そして今月の15日(この日記書いてる四日前)のポスト。

izumino 生徒会の一存を6巻まで読んだインプレッション。「アスカはメインヒロインじゃない都子」 link


 さらに最近、最新刊である『生徒会の七光』まで読んだのですが……、このシリーズで初描写となる「飛鳥(アスカ)」は、想像通りに「メインヒロインじゃない都子」という感じの幼馴染みキャラでした。
 しかも、髪型(黒髪ポニテ)まで同じですよ。なんだこれ。


 『ときめきメモリアル4』は12月3日発売、『生徒会の七光』は12月25日発売(アニメ版の最終話は12月下旬)なので、完全にシンクロニシティですね。

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  • 6,7巻から「卒業編」に入る一存シリーズ

「メインヒロインとしての幼馴染み」都子

 一応は「隠しヒロイン」ということになっている都子に対して、「メインヒロインじゃない都子が飛鳥」というのも変な言い方ですが、実は変じゃない、っていうのはときメモ4プレイヤーにはわかっていただけると思います。



 だいいち4のパッケージはダブルヒロイン制になっていて、皐月先輩(画像左)と星川さん(右)のどちらも「1・2のメインヒロインの後継キャラ」という側面の方が大きく、「4を代表するキャラ」としてのユニークさは、ない(→参考参考2)。*1
 そしてこのダブルヒロインは、過去のメインヒロインの後継キャラでありながら「幼馴染み」という特権を都子にゆずっています4mobileでは共通してメインヒロインが幼馴染み設定)。


 それに都子シナリオでは彼女だけが「伝説の樹」の「伝説」を正確に受け継いでいることが明らかにされたり、公式サイトのダウンロードコーナーではなぜか都子だけ隠し壁紙が複数追加されていたり(その1その2)。


 スタッフの人、これ絶対わかってやってる。*2



 隠しヒロインであるにも関わらず、ユーザーからは「これメインヒロインだろ」と言われほうだいの都子が『ときめきメモリアル4』で何をやっているのかというと、「ナンパゲーを終わらせているのだ」という言い方が一番端的だと思います。
 ときメモあたりで確立された「恋愛シミュレーション」というジャンルですが、その本質は「プレイボーイのナンパ」です。


 ときメモシリーズは、ゲームシステムの側から「プレイヤーが複数の女の子をデートに誘う」状況へ仕向けるようにできています。
 自然にプレイするだけでナンパしているようなシステムであり、だから世界観のレベルでもナンパは肯定されている行為です。むしろ、「女の子をナンパしないようなオクテな男には悪い噂が立つ」という奇妙な女子文化がゲームシステムを裏付けているくらいです。
 これは、スーパーマリオクリボーを踏んづけて殺すこと」にべつだん罪悪や異常性を感じなくてもいいのと同じレベルの問題であって、ときメモ4の主人公は知り合った女の子と律儀にデートしまくるのが「当然」であって、ブッキングさせたデートの約束で「よーし楽しみだぞ!」とはしゃいだり、別々の女の子と手繋ぎデートをしながら「すごく幸せだ!」と無邪気に喜んだりするのです。
 しかし女子も女子で、恋愛観がおかしいです。「二股をかけてくれない主人公」に機嫌をそこねることはあっても、「二股をかける主人公」に怒るそぶりはほとんどありませんから。*3
 きらめき高校での異性交遊は、「告白前まではデート中に手を繋ぐのがせいぜい」みたいな所があるので、告白さえしなきゃ誰とでもデートしていい、というライトな感覚があるのかもしれませんが。*4


 ……しかしそんな、異様な恋愛文化が蔓延するきらめき高校を、真っ向からブチ壊してくれるのが都子です。

都子は「いつも私だけを見てくれる人」が好き

話を最初に戻すと、スクールデイズ等、通常のヤンデレは精神的に不安定な状態のまま「私だけを見て」とプレーヤーを恐怖に陥れ続けのですが、都子の場合、ヤンデレはあっさり克服する代わりに、今度はゲームシステムを破壊して「私だけを見て」とプレーヤーに訴えかけるキャラに変化するのです。


 ナンパゲーから出発したシリーズでありながら、その最新作では、「ナンパを否定するヒロイン」が一番目立っているというわけです。
 まぁ普通に考えて、思い人の浮気を許さない「都子」という存在は、あの異様にナンパな性格の主人公にとって「あらわれるべくしてあらわれた女の子」という観もあるのですが。*5




 また実際、ゼロ年代というのはナンパゲーというか、複数攻略ルートのあるギャルゲーが限界をきたしていた時代でもあり、『こいびとどうしですることぜんぶ』に代表されるような単独ヒロイン制のいちゃラブ作品や、『ラブプラス』のように、同時攻略(ナンパ)そのものをゲームから排除した作品が立て続けにリリースされていました。
 みんな「一人の主人公に複数の女の子をあてがうもんじゃない」と頭ではわかっていたんじゃないでしょうか。

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 もしくは、複数攻略ルートの形式をとりつつも、最終的にはひとつの「トゥルーエンド」に集束する構造を持たせた作品も、ゼロ年代終盤に根付いた思想と言えるかもしれません。
 また、その前段階として「複数攻略の果てには破滅しかない」という思想のもとにバッドエンドを提示してきたヤンデレの系譜も外せないでしょう。

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 ヤンデレを含むこれらのムーブメントが起こったのは、そもそもは「ときメモ的なナンパゲー」「To Heart的な仲良し空間ゲー」に対する自己言及性なのでしょうが、そんな「ヤンデレによるナンパゲーの破壊」が、はからずやオリジナルである*6ときメモ」というタイトルにおいて行われた……ということが09年末の「事件」だったわけです(って、いずみのが言ってるだけですけど)。

「ラスボスとしての幼馴染み」飛鳥

 ようやく「生徒会の一存シリーズ」の方に戻りますが、つまり、都子と同じ「私だけ見て」キャラだったんですね……飛鳥という幼馴染みヒロインは。


 ただし、ときメモ4と生徒会の一存では、作品の前提が異なるので、都子と飛鳥とでは立ち位置が当然異なりますし、性格もだいぶ違います。


 飛鳥のキャラ性を一言で言えば「ラスボス」でしょう。


 このシリーズの主人公は、『WHITE ALBUM』『To Heart』『Kanon』『君が望む永遠』『マブラヴ』『School Days*7といった「仲良し空間の気持ち悪さ」とか「一人だけ選ぶと他の子が救われなくなる問題」や「三角関係/修羅場/ヤンデレ」とかの文脈を前提にした上で、「それでも仲良し空間を作って、一人だけ選ぶようなことはせず、みんな救って修羅場も回避するんだ」という約束をしている主人公だったりします。


 普通のラノベとして考えると、こういう「約束」への期待は破ることができません。もし破ったとしたら、「ルフィが海賊王にならない」みたいなもの。
 だから、同じ「私だけ見て」というヒロインでも、(恋人作りが最終目的である)ときメモ4なら天然で問題人物だった主人公が「都子によって浮気を矯正される」という改善の関係が成り立ちますが、そもそもハーレムを目指している生徒会の一存だと主人公のハーレムに対する「最大の障害」として飛鳥が現れるという構図になると考えられます。*8
 主人公が何かを目指そうとしたら、必ず「自らが招いてしまった最悪の事態」を克服しなければならない……という脚本術の常道として、飛鳥はあらわれるわけです。*9


 さて、このエントリのタイトルにもしていましたが、この二人のヒロインが去年の12月、つまりゼロ年代の最後尾において並んで世に出ているというのも、偶然のこととはいえ象徴的な出来事と思わずにはいられない、ということなのです。

『生徒会の一存』に注目中 - ピアノ・ファイア

 ゼロ年代の終盤には「それまでの萌え文脈を終わらせる」志向を持った作品が多くリリースされてきましたが、『生徒会の一存』は、その結論が出ているはずの話をもう一度ぶちこわして先に進んでいるという、「こいつら未来に生きてんな」観があります。

*1:リンク先では指摘されていないけど、「眼鏡ッ娘の親友がいる」というのも「虹野→星川」で継承されている設定だろう

*2:都子を攻略せずにクリアした後に語られる「各ヒロインの後日談」では、他は一律して「元気にやってるらしい」という安心できる説明なのに対して、都子だけ「進学してから顔を見てないんだよな。どうしてるんだろうか」という不穏な説明で切れるあたりも地味に重い。ちなみに都子自身は、主人公が執拗にデートに誘わないかぎり「主人公への憧れを恋愛未満の思い出として閉まっておける」ということでなんとか他のヒロインの攻略を許せているのだが、その「思い出」にしても相当の重さである

*3:語堂さんの実家の喫茶店に別の女の子と入ると、語堂さんが嫉妬する、くらいか

*4:だからゲーム中に、キスイベントや、深いスキンシップが描かれないのは「恋愛の重さをなくす」というスタッフの良心とも言えそう

*5:ちなみに「都子が浮気を望んでいない」=「傷付いた他の女の子をフォローしなくていい」ということにはならないので、都子ルートに入った後でも主人公=プレイヤーの倫理は試されることになる。あと、なんだかんだで「他の女の子と仲良く会話」→うさぎさんに襲われるのパターンは一種のプレイっぽく思えなくもないので、八方美人に生きることが完全に否定されたわけでもない

*6:同級生シリーズについてはまた別の機会に。あれはあれで『下級生2』が「ナンパゲーを終わらせている」位置付けにあると思う。→参考:http://togetter.com/li/3621

*7:ここで並べたタイトルは、ゲーム内容だけでなく「メディアミックスや二次創作で拡散していく世界観」とセットで問題視されるようなキラータイトルから抽出している

*8:選択肢としては「その独占欲を失わせるくらい飛鳥を幸せにして救う」のが最上手なのだろうけど、そううまくいくのかどうか。原則としては「主人公が相手の言いなりになって約束を諦める」と挫折になってしまうが、「主人公が自分の判断で約束を書き換える」のはOKなことに注意

*9:ときメモ4の場合は、「最高難易度」の皐月先輩+「こちらにその気がなくても告白してきて本命ルートをへし折る」星川さん、のダブルヒロインこそがラスボス的存在と言えるかも