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続・「ことば」とは何か? を本で学ぶ

 以前のエントリを書いた後、ブクマから本のオススメを頂戴しましたので、また勉強してます。

ことばと文化 (岩波新書)ことばと文化 (岩波新書)
鈴木 孝夫

岩波書店 1973-01
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朝鮮語のすすめ―日本語からの視点 (講談社現代新書 614)朝鮮語のすすめ―日本語からの視点 (講談社現代新書 614)
渡辺 吉鎔 鈴木 孝夫

講談社 1981-01
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 まず鈴木孝夫『ことばと文化』から。この本、前半の基礎知識的な部分は、S.I.ハヤカワの『思考と行動における言語』と被っている概念が多くて、それも『思考と行動〜』の方が内容的に充実してますね。
 英語圏の視点で書かれた『思考と行動〜』に対して、「日本語圏の視点で書かれている」という以上の発見はあまりありませんでした。

思考と行動における言語思考と行動における言語
S.I.ハヤカワ

岩波書店 1985-02
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 ただ、終盤(第六章「人を表すことば」以降)の、「日本語における人称名詞」がユニークであると解説する所からは面白かったです。
 例えば日本では「妻が夫を“お父さん”と呼ぶ」習慣が常識的にあるのに対して、そういう関係を西洋人が知ったら「まるで親子が近親相姦しているみたいだ」と驚くのだそうです。
 そう言われてみると、若い奥さんが旦那さんを「お父さん」と呼ぶのには、どことなくいかがわしい響きがあるような気がしてくるのが不思議なものです。


 そんな風に、西洋における言語との「比較言語論」から「比較文化論」へと広がっていくのですが、ちょっと気をつけないといけないのは、「言語上の比較がそのまま、文化上の比較に適用できるとはかぎらない」という論理の飛躍であって、それは『朝鮮語のすすめ』という本の中で厳しく諫められています。鈴木孝夫は『朝鮮語のすすめ』の「まえがき」を担当しているのですが、自分自身でもそうした「論理の飛躍」を反省しているようです。


 『朝鮮語のすすめ』の方は、えらく面白かったですね。朝鮮語の文法や用法ってのは、めちゃくちゃ日本語に似ていて、でも同一の言語から枝分かれした「兄弟」というわけではないらしい*1……、というのが非常にミステリアスです。
 こちらもまた、比較言語論、比較文化論として関心を誘う内容でした。特に「恩」に対する感覚っていうのは民族間の文化差が現れやすいものだと思っているので、その点を知る切り口にもなります。


 『朝鮮語のすすめ』自体は80年代のはじめに出版された本ですが、今では朝鮮語の研究ももっと進んでるはずですよね。最新の研究成果が読める本があったら、それも読んでみたいです。

*1:英語とドイツ語の間にあるような「語源的に共通する語彙」が、日本語と朝鮮語の間からはほとんど発見できないため。なのに文法はそっくり、ってのが凄い謎