HOME : リクィド・ファイア
 移行後のはてなブログ:izumino’s note

サラリーマンはかっこいいと呼べるのか?

http://d.hatena.ne.jp/kaien/20070910/p1

 職業として生活のために書くサラリーマン作家、そういうイメージがあることはよくわかる。

 読者は作家の内心にまで踏み込むべきじゃないと思うんだよね。わかるわけないんだから。

 気楽な作風の作家が気楽に書いているとはかぎらない。一見ウェルメイドで安定した作品を大量生産しているように見える作家は、実は発狂寸前にまで自分を追い込んでいるかもしれない。

 これはとてもいい文章。

みんなって、特定のだれよ? | 旧館:物語三昧~できればより深く物語を楽しむために

 そして、↑の海燕さんの記事とも関連するな……という気もするペトロニウスさんの記事なのですが。
 ぼくがペトロニウスさんと友達になって、一番良かった……と思えることがひとつあって、それは


「なんてビジネスマン(サラリーマン)という人種は、熱くてカッコイイ人達なんだ」


と思えるようになった、ということだったりします。
 ペトロニウスさんと直接会う時は、リンク先の記事に書かれているような、ペトロニウスさんの会社の体験談を必ず訊くことにしているのですが、これがもう「事実は小説より奇なり」を地で行くような熱くて面白い話ばかりなんですね。もっとも、語り部にして当事者であるペトロニウスさん本人は、いつも死ぬような目に遭ってて、面白がるのも悪いような「苦労話」なんですけど。


 だからぼくは、ペトロニウスさんと会うことで生まれて初めて、ビジネスマンという存在を心の底から尊敬できるようになったと言ってもいい。
 勤め人を父親に持って育った人なら、大抵の人がそうだと思いますが、ぼくも御多分に漏れず「父親の職業を尊敬できない子供」でした。働いている姿が見れないことも大きいですが、一度も「やり甲斐」を感じているような様子を感じられなかったからでしょう。仕事は労苦でしかなく、夕食時に飲む酒と祝休日にゴロ寝することだけが生き甲斐という、どこにでもある父親像です*1(そういう家に育った子供ほど、「じゃあ趣味を仕事にするか、趣味を最優先にできる仕事に就けば生き甲斐を持てる筈だ、サラリーマンなんか生き甲斐になりゃしないんだ」というように、趣味を「生き甲斐」の頂点に据えがちでしょうね)。


 しかし、それは社会や組織というものを浅瀬から覗いた時の印象でしかなくて……、実際にビジネスの奥の深い所(国際経済にダイレクトに関わることのできるアクセス深度のある世界)だと、そんなにも「やり甲斐」と「血湧き肉躍るスペクタクル」が仕事に伴うものなのか! と目から鱗なのがペトロニウスさんの体験談でした。
 ついでに言うと、本当のビジネスの世界ほど、杓子定規で動くような「大人の世界」では全然無いらしい、というのが面白い。少年がそのまま大きくなったような荒唐無稽な人物が死に物狂いの活躍をしているような、良くも悪くも「漫画のような世界」としか思えなくなるのが、ペトロニウスさんの言葉を通して見えてくる「社会」です。


 ただ、ぼくの中では「仕事を義務や労働としてしか認識していないサラリーマン」と、ペトロニウスさんの体験談に登場するような「仕事を生き甲斐にして死狂いのように働いているビジネスマン」を、完全に別物として捉えている所があります。
 現実にサラリーマンとして働いている人達が確かに何百万人も存在するとして、彼らの内の何割が、仕事に自らの価値を懸けることのできるビジネスマンなのか? というと疑問符が湧くんですね。そして、そこまで仕事に自分を懸けていない彼らにとって……、「サラリーマン」という言葉は、多分あまりカッコイイ言葉でもないのだと思う。
 それは「バイト」があまりカッコイイ言葉ではないように、サラリーマンという言葉には「平社員」にルビを振った程度の軽い価値しか与えられていない(と、多くの人達は感じている)んだろうと思います。


 だから「サラリーマン作家」という、一種の見下し表現も可能になってしまうのでしょう。この「サラリーマン作家」という言葉の裏には、「俺達はつまらない仕事をしているサラリーマンなのだ、だから彼らサラリーマン作家もつまらない仕事をしているのだ」という、相手を同類視した上で同族嫌悪*2してしまうという、倒錯した投影があるように感じてしまいます。


 海燕さんはリンク先の記事の最後を、

ぼくは「サラリーマン作家」なんていないと思う。ただ、作家がいるだけである。

という言葉で締めていますが、こう言い換えてもいいと思います。


 「アーティスト作家」や「サラリーマン作家」という分け方があってもいい。*3
 でも、その上で「仕事にやり甲斐を感じてない作家」や「仕事にやり甲斐を感じている作家」はそれぞれに存在する。


 そんな風に思います。
 もっと言えば、「つまらない仕事をしてる作家」や「カッコイイ仕事をしてる作家」という分け方をしたっていいでしょう。
 勿論、「あいつは仕事にやり甲斐が無いんだろうね」とか「あいつの仕事はつまらないな」なんて、シロウトが先入観で勝手に決め付けちゃいけないものですよ。それは、仕事をしている本人と、限られた理解者達だけが知っていればいいことです。

*1:実際はちゃんと趣味や老後の夢なんかも持ってる人なんですけど、まぁプライベートな話なので誇張した父親像として書いてます

*2:発言者がサラリーマンじゃない場合は、偏見視した上でのレッテル貼りを

*3:実際、「ネギま」の赤松さんは同業者を芸術家と職人で区別して認識してるみたいですが、ぼくはその区別を否定しません