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漫画購入録/緒方てい『キメラ』15巻,斎藤けん『花の名前』3巻

緒方てい『キメラ』15巻

キメラ 15 (15)キメラ 15 (15)
緒方 てい

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 「遅れてきた80年代少年漫画家*1「近年稀に見る漫画バカ」などの異名で知られる(嘘)緒方てい先生の最新刊。
 14巻から15巻にかけてのバトル展開は、「言ったモン勝ちのパワーアップ」「自分の信念を言い切った方が強い理論」「致命傷でも立ち上がれるなんて凄い」など、少年漫画の精髄が恥ずかしげも無く込められています。「最近面白い少年漫画が無い」という人は是非読むべし。
 まぁ掲載されてるのは『SUPER JUMP』という「青年誌」なんですが、同時連載しているのが『曉!!男塾』の宮下あきら、『リングにかけろ2』の車田正美……、という「二大80年代少年漫画家」だという時点で推して知るべし、という感じです。

斎藤けん『花の名前』3巻

花の名前 3 (3)花の名前 3 (3)
斎藤 けん

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 感想。
 俺は唐澤くん*2の立ち位置でいいや(笑)。蝶子ちゃん(ヒロイン)はマジ可愛い。常軌を逸して可愛すぎるので、もう側で見てるだけでいいや、という心境に。
 あとさくらさん(ヒロインの母)の伏兵っぷりにひっくり返りました。なにこの異様な可愛さ。しかも子持ちで。


 ……という脳直な感想はさておいて、ペトロニウスさんの感想で言う所の「誤解から理解へ」「理解=救済」という少女漫画の流れ(関連1関連2関連3)に沿って読むと、「理解」が推し進められているのが3巻なんでしょうね。
 けん先生は根底の部分が楽観論者らしく、津田雅美と同じで「理解=救済」「理解=愛」を描ける人みたい(参考:ペトロニウスさんの津田雅美論)。

『しゃにむにGO』 23巻 羅川真里茂著/悲しみの受け入れ方 | 旧館:物語三昧~できればより深く物語を楽しむために

津田さんの短編などにもよく出ているが、彼女も、過去というものの闇を抱えることを凄く重視している人で、物語の設定にかなり抜きがたい負の側面を持ってきます。親に捨てられたと思っており、子供時代にDVの虐待を受けた有馬くんとかね。これは『彼氏彼女の事情』ですね。その他『天使の棲む部屋』では、18世紀のイギリスの炭鉱でボロボロに働く少年の話で、(中略)・・・という厳しい設定になっています。


いやー厳しいですねぇ(笑)。ただ、津田雅美さん作品を、読んだことある人は、それがオペラのような壮大な解決へのステップになっていることが分かるはずです。有馬くんは、最高の幸せを手に入れるし、天使の棲む部屋も最後の最後で心が冷え切った主人公は、自分が愛した少女と出会うことになります。
つまり、津田雅美さんは、現実は戦って変えることができる!!!と信じているんですね。


だから壮大なオペラのように、凄まじい負があっても、その負が多ききれば大きいほど、その逆の癒しや解放も素晴らしく大きくなるんです。だから、現実の負の側面が苦しければ苦しいほど、逆に、聖性を帯びた解放が、その最後に待ち受けているという物語上の期待感が盛り上がるのです。


逆に云うと、「めでたしめでたし」のご都合主義ともいえます。この「めでたしめでたし」のカタルシスを作り出せる作家こそを、僕は物語作家、と呼びます。

 苦しく重々しい「負」の後に「救済や浄化」が訪れることを信じている(であろう)、という点で、津田雅美斎藤けんは通じていると思います。


 ちなみにペトロニウスさんの津田雅美論は、ぼくとmixi日記のコメント欄で行ったやり取りを下敷きにしている所もあるので、特別にそれを引用してみます。
 去年、いずみのがカレカノの16巻から最終巻までを一気に読み終えた時の日記より。

今更ながらにカレカノ読了

 色々言いたいことはあるけど津田雅美すげええええええええ。
 表現力がハンパありません。
 リアルタイムで読むの我慢して、単行本で一気読みしたのは正解だったかと。


 それにしてもインフレの凄まじい世界だ。こう、感動とか、組み立て方が、ぐっと盛り上げてこうだーっと来る感じでスケールやたら大きいです(擬音で感想書くな)。
 それを演じているキャラクターの人間力もインフレしすぎ。


 レギュラーの人間は一人残らず「ひとかどの人間」になってて、相対的に見ると、なんか真秀ちゃんが一番地味な人に見える(笑)。

ペトロニウス

 ああ・・・そうですかもねぇ。津田雅美さんの初期の作品で、超頭が良かったのだけれども、親の都合で高卒になった彼のことを回想するってマンガがあって、自分は大学生になったが・・・みたいな、ノスタルジーをかもし出すものがありました。


 これを読んだ時に、ジブリでアニメにもなった氷室冴子さんの小説『海がきこえる』のような、、、受験を真面目にがんばった、典型的な地方の学生の匂いを凄く感じたのだが・・・。あれって、「ふつう」を扱った作品だったんですよね。津田さんにも、そういった受験を真面目にやった地方の学生の匂いがずっとベースにあったのですが、、、、

 ところが、このカレカノは、その「ふつう」さを飛び越えていますよね。


 かなり低い地点から、見事に成長していくので、よほど穿ってないと、感情移入はできると思うが、、、才能やその後の人生の大成功の予感からして、「けっ」(笑)って思う人も多いでしょうねぇ。ちょっと、インフレしすぎだもん(笑)。


 とはいえ、全てのキャラクターの成長を彼女なりのロマンで描ききっているところは、さすがだなぁ、とうなりますねぇ。普通どこかで曲がるものなのだが(笑)。

いずみの

 まぁだから、一言で言うと「英雄譚」なんですよね、この漫画。


 作者の読書の趣味を追ってみると、なんか壮大なものが好みだようだし、そういうオペラ的なスケールの大きさと、(作者の中では)同じ世界を描いてるつもりなんだと思います。

ペトロニウス

 ああ・・・オペラ。それは、いえるかもしれませんね。


 ただ、僕は高校生の受験で「自分がまだなにものでもない時」「社会から無価値な時」に彼女の初期の作品に触れて、凄く共感したので、たぶんスタートの等身大の部分は、彼女自身のことですが、そういう人で、そういう「普通の人」が、壮大なものに憧れる、という感じだったんですが、、、
 カレカノでは、そもそもオペラ群像劇(笑)になったので、一皮向けたな、と思いつつも、昔の素朴さが懐かしかったりして(笑)。

いずみの

 多分その変化は、「漫画力」の向上と無関係ではないでしょうね。


 初期の曽田正人が、漫画力的に『昴』を描けなかっただろうのと似たようなもので(で、やっぱりインフレしすぎの『昴』は感情移入できないから残念、って思う古参ファンは多いみたいですし)。

ペトロニウス

 これは面白い題ですね。たしかに曽田正人さんの漫画にも同じものを感じます。


 たぶん曽田正人さんのクリエイターとしての夢は、感情移入できないくらいの天才を描く『昴』だったのだと思いますが、物語世界に飛躍しすぎて、読者がついてこれなくなる・・・これ、確か昔の曽田さん評で書いた気がするなぁ。
 あきらかに、昴のほうが水準が上がっているのだが、、、確かに受け手の層を、狭めた感覚がありましたよね。

 おっと『花の名前』の感想とは関係無い話に飛んでしまった。


 しかし『花の名前』にしても、ヒロインの「聖性」(可愛さ、癒し度、と言い換えても良いのですが)がかなり現実離れしていて、それは『彼氏彼女の事情』や『昴』のインフレ感、スケール感と並べて論じられて良い部分だと思います。
 3巻における、斎藤けん自身の柱コメントが特にそれを言い表しているんですよね、

久しぶりに会う本読みの友人に、「近頃の私の漫画をどう思うか」と聞いたところ、「相変わらずリアリティのない女をかくのが上手い」と評され、「聞かなければよかった」と落ち込むと、「褒めてる」となじられました。

……っていうね。

*1:もっと正確に評すると「90年代の漫画やアニメを学んでしまった80年代の作家」。特にるろ剣の影響が大きすぎると思われます

*2:サルまんでいう所のメガネくん役の人。実際にメガネをかけている