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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

「萌え要素」という言葉には二種類の使われ方がある

 ふとした思い付きで、「萌え要素」というキーワードの使用例を二十日間ばかし監視し続けていたんですが、この言葉にはどうも二種類の異なる使われ方があるらしい、ということが解ってきました。


 ひとつの意味は、評論家の東浩紀が『動物化するポストモダン』で提唱した造語である「萌え要素」。
 もうひとつは、単純に「萌え」と「要素」という二単語を組み合わせただけの日本語「萌え要素」。


 前者の用法を承知している人間がオタク全体から見れば少数派であることを考えれば当然といえば当然なんですが、はてなダイアリーを見ている限り、後者の用法が支配的なようです。それこそ1:9くらいの割合で。

用法の違い

 前者は、キャラクターのパーツ(部品)を分類する為の言葉であるわけです。「ネコミミ」「メイド」「眼鏡」「妹」「委員長」「関西弁」「ドジ」とかね。これらのパーツの組み合わせとしてキャラクターは消費されるのだ、という理論を説明するものです。詳しくは自分で調べてみて下さい。


 後者の使われ方は、もっと日本語的で曖昧なもののようです。キャラクターに対して使われることより、作品全体や、絵柄なんかのスタイルについて言及されることが多い。
 これは多分、「ギャグ要素」とか「泣き要素」「鬱要素」とかなんかと同じファジーな感覚で発せられている言葉なんでしょう。
 「萌え要素がある」「萌え要素が無い」といった有/無や、「萌え要素満載」「萌え要素が薄い」といった強/弱で言い表されることが多いようです。
 日本語としては「あの作品はギャグ要素が弱い」とか「鬱要素が強い」ということはフツーに日常会話レベルで通用する言葉だと思うんですが*1、それと同じルートで生まれて、なんとなく定着した言葉なんでしょう。


 これは消費者側だけでなく、作り手側の使用例も見受けられました。
 例えば、TVアニメ『極上生徒会』のスタッフコメント黒田洋介がこういう書き方をしています。

極上生徒会」って、多分、美少女モノじゃないような気がします。
萌え要素もないかもしれない。でも「少女」が登場して「楽しさ」や「笑い」があって、たまに「ホロリ」としちゃう。
言うなれば、普通の「少女モノ」なのです。そんな、ありそうでなかった作品をみなさまにお届けしたいと思います。ご期待下さい。

 強引な曲解をすれば「(※パーツという意味での)ネコミミもメイドも眼鏡も出さないアニメです」という意味で言ってるのかもしれませんが、まぁ、『極上生徒会』は眼鏡ッ娘ドジっ娘もお嬢様も委員長も出てくるアニメですしね。
 萌え要素は意識してないけど、ギャグ要素や泣き要素は用意してますよ、ということだと思います。
 ウィキペディアの「萌えアニメ」の解説も似たような言い回しを用いています。キャラクターのパーツではなく「作品」が萌えを狙っているか、狙っていないかという方向性の有無を指している。


 萌え要素満載のアキバ型打ち水なんていう見出しも発見しましたが、これも同じで、パーツの数とかではなく、イベントが持つ「萌え度の高さ」みたいなのを表現しているようです。

英訳すると

 和英辞典で「要素」を検索すると、

要素
element // ingredient // making // material element // stuff
要素
factor

「エレメント」と「ファクター」が別々に扱われていることが解ります。
 普段日本語として用いられている「要素」は、おおよそ「ファクター」の方の意味でしょう。「要因」や「原因」の意味合いが強く、ソリッドではなく流動的なものを指す言葉だと思います。
 「ギャグ要素」「萌え要素」の「要素」はこちらでしょうね。


 対して「エレメント」は「分子」や「元素」、「構成物質」というか、素材とか部品とかのソリッドなものを指す言葉で、(パーツ的な意味合いの)東浩紀用語である「萌え要素」はこちらに近い気がします。*2


 しかしまぁ、「パーツ」もファクターと言えばファクターなので、特別東浩紀の用語を知らなくても、例えばその人にとって「関西弁」が萌える要素になるなら「関西弁」を萌え要素と呼ぶケースもあるようです。

じゃあパーツのことはなんて呼ぶのか

 要因を意味する「萌え要素」とパーツを意味する「萌え要素」が同じ言葉だとするとややこしいので、日常会話レベルでは「萌え属性」という言葉でパーツを表している人が多い、ということも調べていると解ってきました。
 これはギャルゲーマーを中心に使われていたスラングだと思うんですが、最近出回っている「萌えバトン」の質問項目にも入っている影響で、ゲーマー以外にも広まってきている言葉のようです。


 言及数も一週間くらい前から突然逆転しているのが面白いです。

*1:でも流石に一般人は言わないか?

*2:確か『動物化するポストモダン』は仏訳されていて、多分主要な用語は英訳もされてると思うんですが、なんて訳されているのかは気になります