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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

絶チルはラブひなだ

 出遅れてしまいましたが、遂に『絶対可憐チルドレン』が連載開始することについての反応です。
 連載に挑むシイナセンセのコメントがこのようなもの。

 基本コンセプトは「ソリッドな秋葉系でない、背骨の通った美少女SFコメディー」。今の少年誌にはビミョーな路線なんですが、それに懸けたこの執念、同世代の大きいお友達にはわかってもらえるよね(笑)? 勝ち目があろーとなかろーと、俺はこーゆーの好きだし簡単には捨てられない。俺が打ち切られたら、誰かがあとをついでくれ。

 赤松漫画で少年漫画を語ってみたりケンイチと結びつけてみたり、果てはネギまレイアウト論を語ってみたり、「なんでもかんでも赤松健を通して語る」というのがウチの最近の芸風なわけですが(笑)、以前、マスにおもねる行為を奨励する記事赤松健発言集)を書いた身からすると、このシイナの心意気に対する見解を示しておかねばならんだろうと思った次第です。


 赤松健発言集では「自分の為に描くこと」と「人の為に描くこと」の対比を強調して、「大衆娯楽の良さ」を美化したわけですが、この場合の絶チルをどちらに分類するかといえば、ぼくは勿論「後者」だと捉えます。もしくは「両方」。
 シイナファンなら彼が秀才タイプであることなんかは解りきっていることですし、サービス精神が豊富なことも良く知ってるわけです。
 確かに「マイナー好み」な性格ではあるけど、ハリウッド的な所も含めて。


 つまり、「同世代の大きなお友達」が「ある程度の大きな層であること」を信じて、そこに「ある種の普遍性があること」を賭けて椎名高志はサンデー連載に臨んでいる。
 一番最後の「普遍性があること」っていうのが重要で、単に「大きなお友達」に読ませたいだけなら、素直にサンデーGXで「マニア御用達の漫画」を連載すればいいんですよ。島本和彦みたいに。
 そこをあえて週刊少年サンデーで連載するということは、「子供などの一般読者に読んでもらいたい」あるいは、「サンデーにSFコメディを復活させたい」という願望が込められている筈です。
 そこには「自分が描いているものは大衆(=子供から大人まで)が好む要素がどこか必ず含まれている筈だ」という希望が込められている筈です。
 いや、シイナならそう考えているハズだ。


 これは『武装錬金』の和月伸宏とは根本的に異なる点で、彼は「ジャンプ」という誌面に載ることだけに拘っていたフシがあって、結果的に自分のファン以外を切り捨てた漫画を描いてしまった。だから、(和月ファンはこれ聞くと怒るだろうけど)個人的に『武装錬金』って、藤崎竜の『Waqwaq』とそんなに変わらない漫画なんですよ。漫画単体の面白さとか、古参ファンに対する誠意の有無は別として。彼らは大衆を見てない。


 で、何を言いたいのかというと、「一番大きなマス」に迎合することだけが「大衆娯楽」ではない、と。極端に言えば「一番大きなマス」っていうのはイコール「団塊世代団塊ジュニア」になってしまうわけで、そこばかりに媚びているとむしろ全体を取りこぼすことに繋がるわけです。TV番組やポップスがつまらない理由の大半っていうのはコレですね。
(その点、1965年生まれの椎名高志は見事に少数派の世代だったりするわけですが)


 しかし少年誌を読む子供っていうのは何の前知識も無く漫画を読むわけですから、「ひょっとしたら俺達の好きな漫画のテーマが通じるんじゃないか?」と信じたくなると。それが絶チルなのではないかと思うのですが、どうでしょう。
 んで、これがうまくいくかいかんかはやってみないとわからん(笑)。


 そこで思い出すのが、『ラブひな』連載直前の赤松健の日記です(やっと見出しのタイトルと内容が繋がった……)。

1998年8月6日

内容はマガジンらしくなく、人気アンケート的には非常に苦しいことになるでしょうが、
悔いはありません。どうせなら、好きなことをやろうじゃないか!ということで。(^^;)
でも、出来るだけ頑張るよ!

1998年8月7日

赤松スタジオのスタッフで、「連載決定祝賀会&連絡会」を市内某料亭で。
あまりマガジンらしくない企画ということで、みんなやる気まんまんです。
「一丁カマしてやるぜ!」ということで、まとまりました。(笑)

 どうでしょう。大体言ってること同じなんですよね。*1連載するのが「怪獣世代のオタク向け美少女SF」と「アキバ系のオタク向け美少女ラブコメ」という違いはありますが。*2
 『ラブひな』も、「全体から見れば小さな客層」であったオタクの為に漫画を描く、という不利な状況からスタートして、結果的に「少年誌でオタク向けの漫画が読める」という状況を作り出し、その「小さな客層」を拡大してマーケットにまで押し上げ、多くの後続作家が連載できる風穴を開けると同時に、当時の中高生をオタクの道に導く役割を担ったわけです。


 絶チルがサンデーでヒットするということは、ラブひながマガジンでヒットすることと同じような意味がある、と言えなくもないでしょう。少年誌に風穴を開ける、という。


 椎名高志は「秋葉系路線」を目の敵にしているような所もありますが、それは当時のラブひなが「少年誌の一般向け路線」に対抗意識を燃やしていたようなものだと思います。逆説的に言えば、「少年誌の秋葉向け路線」は既にそういう位置に来ているのだ、ということも解ります。


 ……と、非常にウチらしい雑感を書いてみたのでした。細かいことを抜きにして、連載開始が楽しみですわ。


追記:id:izumino:20050626#p1

*1:ラブひなも、20週くらいで打ち切られる前提で始めていたらしいし。

*2:ところで、椎名高志赤松健って三歳しかトシ違わないんだなぁ。殆ど同世代じゃないか!