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【告知】08/08夜に『残響のテロル』『アルドノア・ゼロ』Ust

 定例のHARD-WIREDさんとのアニメUstですが、明日の夜に配信始めます。
 お題は渡辺信一郎作品ファンであるHWさんのセレクトで、同じく渡辺信一郎ファンであるレスター伯さんを今回はゲストに呼んでいます。


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『selector infected WIXOSS』『ノーゲーム・ノーライフ』Ustの保存先

 古参のTCGプレイヤーにして、オンライン対戦ゲーマーでもあるHARD-WIREDさんをホストに、TCGアニメselector infected WIXOSSとゲーマー兄妹アニメノーゲーム・ノーライフについて語ったUstの保存先です。


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【告知】本日22時頃からHARD-WIREDさんと『Selector Infected WIXOSS』『ノーゲーム・ノーライフ』Ust

 また直前の告知なのですが、だいたい月一ペースで配信しているアニメUst、今夜は22時頃から配信いたします。


 ホストのHWさんは古参のTCGプレイヤーで、今はオンライン対戦ゲーマーでもあるのですが、ゲーマー視点も絡めたSelector Infected WIXOSS』『ノーゲーム・ノーライフの話とかしたい予定です。
 いずれも最新話までの視聴前提です。


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【告知】『アニメのかたろぐ 1990ー1999』

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 先日発売されたばかりの本ですが、日本の90年代アニメのガイドブックである『アニメのかたろぐ 1990ー1999』にライターとして参加しています。
 マンガ業界のライターさんは、ぼく以外にもいらして、『マンガのシステム』翻訳者の野田謙介さんもそうですね。


 泉信行の担当作品は9作で、内訳は以下のようになっています。


 ……と、全体としては「少女向けアニメ」と「サンライズのロボットアニメ」が回ってきた感じです。
 編集の佐野さんとは、『魔法少女まどか☆マギカ』の本で縁があったので、魔法少女アニメについて書ける人、ということで依頼が回ってきたのかもしれません。


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 泉は著者紹介欄でも述べている通り、10代が90年代とそっくり重なる1980年の早生まれですから(ちなみにあの自己紹介は佐藤友哉のパクリです)、当時のアニメを見返しながら記録に残す作業は、個人的に楽しいものでした。


 特に、大好きな『ママは小学4年生』について書けたのは嬉しかったです。
 「プリティーリズム」や「ワタル」でお馴染み、井内秀治さんの総監督・脚本のアニメなんですよね。サンライズアニメとしては『アイカツ!』のご先祖さまだったり、なぜかSFアニメとして星雲賞の受賞経験があったりと、記録しておきたいことをなんとか詰め込んで述べることができました。


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誤字脱字報告

 ところで入稿がちょっと急ぎ気味だったせいもあってか、本になる段階で誤字が二箇所出来てしまいました。
 一応、自主的に誤字脱字チェックの一覧も載せておきます。

  • p69:ママは小学4年生
    • × 「ママ4」の愛称で愛された → ◯ 「ママ4」と呼ばれて愛された(※「愛称」と「愛された」で重文気味なので)
  • p70:伝説の勇者ダ・ガーン
    • × 主人公の少年も小学三から四年生から → ◯ 主人公の少年も小学三〜四年生から


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佐野 亨

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解説・朝松健による「学園バイオレンスの系譜」

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 先月発売された『S-Fマガジン』誌上で、吉田隆一さんと泉の対談記事が掲載されています。
 これはお読みいただいた読者さんには承知済みだと思われますが、「ジュヴナイルSF特集」という記事の中で、主に「80年代頃の朝日ソノラマにおけるジュヴナイルSF」にテーマを絞った談話になっていました。


 実は3時間くらい語り合っていた分量(吉田さんの話を泉が聞いていたところが大きいですが)に対し、当然ながら紙幅の都合上でカットされた部分もたくさんありました。


 その中でも、特に、菊地秀行夢枕獏に代表されるような「伝奇ヴァイオレンスSF」「学園バイオレンス」について語った内容は、ほんのちょっと混ぜ込むのが精一杯でした。
 そこで、ささやかな補足も兼ねて、泉が持参していた資料の紹介でもしておきたいと思います。


 それが、菊地秀行『魔人学園』の文庫(1992年版)に寄稿されていた朝松健の「解説」です。


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 本人の読書体験と記憶に基づいた証言になっており、ある一面からの目撃談として読むことができるでしょう。

殺戮/梶原一騎

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 まず朝松健は『魔人学園』を解説するにあたり、学園バイオレンスの転換点として梶原一騎『夕やけ番長』を振り返ります。


 (ジュヴナイル小説ではなく、少年漫画から、というのも示唆的ですが)秋田書店の『冒険王』で1967〜1971年に連載されていたこの作品は、従来の学園マンガ*1の暴力が「単なる殴り合い」でしかなかったのに対し、タブーを破って「殺し合い」にまでエスカレートさせてしまった初の作品だとしています(実際に殺したかは別として、「殺意のある殺し合い」が描かれたということでしょう)。
 これは、後の梶原劇画にも継承されて拡大しつづけていく要素(朝松健は「因子」と呼びます)でもありました。

陵辱/平井和正

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 次にタブーを破ったとされるのが、SF作家の平井和正
 1969年の『SFマガジン』に発表した短編「悪徳学園」において、女教師が不良に輪姦されるシーンを描いた。
 しかも、ストーリーの進行上に必要な出来事として、その陵辱シーンを描いた。


 ここから菊地秀行への影響も関わってくるのですが、朝松健が本人に確認したという証言によると、「悪徳学園」の載った『SFマガジン』を読んだ当時に「これがアリなら、なんでもアリだ」と思った……と答えたそうです。


 なお、この解説では触れられていませんが、平井和正と縁深い作家として永井豪を挙げてもいいと思います。
 特に講談社から発表された『ガクエン退屈男』(1970年)には、次に触れる雁屋哲の仕事を予見させる要素もあったはずです。


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  • 『週刊ぼくらマガジン』(講談社)にて1970年連載

組織/雁屋哲

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 平井和正に続いて、学園バイオレンスに更なる因子を加えた人物は、再び少年漫画の場から出現します。
 その人とは、『男組』の原作者である雁屋哲とされます。1974〜1979年に『週刊少年サンデー』で連載していた学園マンガが『男組』です。


 日本中から少年犯罪者がかき集められ、全国規模で「番長連合」が組織されるだけでなく、抗争の舞台は学園に留まらない。
 「私設軍団を持ち、警察機構を思うがままに操る“影の総理”」という巨悪が背後に存在し、その争いには政治的な思想に支えられた「大義名分」と「組織論」が持ち込まれている。
 さきほど『ガクエン退屈男』の話を挟んだのも、学生運動を下敷きにしていた『ガクエン退屈男』には、その「大義名分と組織論」の萌芽があったかもしれないからですね。


 元々、『週刊少年マガジン』の梶原劇画への対抗馬(例えば『愛と誠』が1973年からの連載)となるべく強化されたような「サンデー」の劇画路線ですが、そこで雁屋哲の『男組』こそは、「学生同士の殺し合いに大義名分と組織論を導入したエポックメイキング」だったと朝松健は位置付けています。

ソード・アンド・ソーサリー/菊地秀行

 さて、1987〜1988年にかけて講談社の『月刊ORE(オーレ)』に連載された『魔人学園』は、上述の三要素を全て取り込んだ上で、更なる「ひねり」を加えたとされます。
 それこそが「剣と妖術(ソード・アンド・ソーサリー)」のファンタジー要素であり、殺し合いに参加する学生たちは、青銅製のブロードソードを振り回し、密教修験道キリスト教などの秘術をごった煮に操り、異世界からは「転校生」が召喚される。


 要は、今でこそ当たり前となった「学園ファンタジーバトルもの」も、『魔人学園』が初めて我々の前に提示したのだ……というテイで朝松健は解説しているわけですが、個人の記憶によるものですから少し留保は必要でしょう。87年には何か先達があったのかもしれませんし。*2


 参考までに、「青銅の剣」といえば『ドラゴンクエスト』の第一作が1986年発売です。『コンプティーク』で「ロードス島戦記」のTRPGリプレイが始まったのも1986年。
 そしてファンタジーRPGTRPG)のエッセンスを敏感に取り入れた漫画として画期的だったBASTARD!!の登場は、『魔人学園』と同じ87年でした。


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 この頃はまだ、日本人の描くヒロイック・ファンタジーがとても珍しい時期だった……、というのは確実であると言えるでしょう。

講談社的なもの、小学館的なもの

 さておき、以上までを吉田隆一さんに話してみたところ、「その系譜には朝松健自身の『私闘学園』も当然付け加えるべきでしょう」とすかさず言っておられました。


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朝松 健 島本 和彦

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 作者が「学園ムチャクチャ小説」と呼ぶ『私闘学園』は、学園バイオレンスに「80年代的なパロディ要素」を加えた作品として位置付けられるでしょうか。


 この小説の挿絵が、まさしく学園マンガのパロディである炎の転校生を『週刊少年サンデー』で描き、雁屋哲の原作で『風の戦士ダン』を手掛けたこともある島本和彦だった──というのもその点で象徴的かもしれません。


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雁屋哲 島本和彦

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  • 学園マンガではなく忍者マンガですが、雁屋哲のシリアスな原作に島本和彦的なパロディとギャグが付け加えられたとされる作品(参照:雁屋哲のブログ


 余談ですが、泉は『ユリイカ』の週刊少年サンデー特集で『男組』から史上最強の弟子ケンイチに連なるカンフー漫画の系譜も振り返ったことがあります。


ユリイカ 2014年3月号 特集=週刊少年サンデーの時代  トキワ荘から『うる星やつら』『タッチ』『名探偵コナン』そして『マギ』『銀の匙』へ―マンガの青春は終わらないユリイカ 2014年3月号 特集=週刊少年サンデーの時代 トキワ荘から『うる星やつら』『タッチ』『名探偵コナン』そして『マギ』『銀の匙』へ―マンガの青春は終わらない
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 そこでは「サンデーらしさ」の特徴として「優等生っぽさ」と「オタクっぽさ」を挙げていましたが、80年代サンデーの特色といえばやはりパロディ的な要素です。


 松江名俊の『史上最強の弟子ケンイチ』も、政治的な大義名分や組織論までテーマが拡大する部分は確かに『男組』の直系と言えますが、同時に格闘技オタク的なパロディ趣向も強い作品でしょう。


史上最強の弟子ケンイチ (1) (少年サンデーコミックス)史上最強の弟子ケンイチ (1) (少年サンデーコミックス)
松江名 俊

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 改めて考えてみると、講談社梶原一騎から菊地秀行に連なる「学園バイオレンス」の系譜と、小学館雁屋哲から島本和彦松江名俊に連なる「学園バイオレンス」の系譜をふたつに分けて捉えることもできるかもしれません。


 この枝分かれした系譜の影響を双方から受けつつ、現代の学園ものが生まれている、と仮定して考えてみても面白いでしょう。


 現に、『SFマガジン』の対談では、伝奇小説の伝統を持つ講談社のノベルズと、その伝統とは距離を取って発展してきたライトノベルの違いについても語っていましたから。
 ピンと来る人にはピンと来ると思いますが、伝奇小説と区別した場合の「ライトノベル(の学園もの)」というのは、マガジンと区別した場合の「サンデー」に似通ったオタクっぽさがある、という見方もできるわけです。


 また付け加えるならば、今となっては「講談社的なもの」と「小学館的なもの」の区別は、むしろ「講談社的なもの」と「KADOKAWA的なもの」の違いに移動している……と、考えてみてもいいのかもしれません。
(これは伊藤剛さんが『ゲームラボ』の連載で、「80年代サンデー的なエッセンスは他の出版社に移動していった」と分析していたことにも準じています。*3


 そろそろ「学園バイオレンスの系譜」の話から少々風呂敷も広がりすぎてきましたが、「現代の『魔人学園』」と評してもまったく差支えのない戦闘破壊学園ダンゲロスが、KADOKAWAグループからではなく講談社BOXや『月刊ヤングマガジン』で発表されているというのも、なかなか象徴的なのかもしれません。


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*1:ここで想定されている従来の作品とは、ちばてつや『ハリスの旋風』などでしょう。

*2:ちなみに「学園超能力バトルもの」であれば『幻魔大戦』など歴史は深く、ここは「学園ファンタジーバトルもの」の歴史に限定すべきでしょう。

*3:ゲームラボ』2008年4,5月号「マンガなんてただの過ちだ」参照

「女装っ子」表現から読み解くキャラクター作画

 先日、Twitterでこんな論文が紹介されていました。

図像的フィクショナルキャラクターの問題(高田敦史)


 そこでは、伊藤剛テヅカ・イズ・デッドにおける「キャラ/キャラクター」論も触れられていたのですが、それを聞いて、昔『ゲームラボ』に伊藤剛さんが書いていた「女装っ子」論を思い出しました。
 ちょっとその連載記事を引っ張り出して、要点をメモしてみます。
 今読んでも示唆があるので、埋れさせるにはもったいない原稿だと言えるでしょう。


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 『ゲームラボ』2008年9〜10号の二回にかけて、女装もの/男の娘ものが分析されます。
 まず大きな分類としては、萌え系の「男の娘もの」がある。「こんな可愛い子が女の子のはずがない」ってやつですね。
 その一方で、青年誌などに多い「女装もの」を区別する。例として浦沢直樹『MONSTER』金田一蓮十郎『ニコイチ』の表現など。


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  • BL漫画では『俺のカノジョが男なわけがないっ!』なども『ニコイチ』と同じタイプ


キーワード
・「キャラの現前性」を利用した男の娘もの
・「もっともらしさ」を描いた女装もの


 このふたつを分けるポイントとして、「キャラ図像」「身体」「設定」のみっつが挙げられます。


 「キャラの現前性」を利用した男の娘の表現では、(体格まで及ぶ)「美少女にしか見えない」キャラ図像こそが女装を担保します。
 《年齢も性別も曖昧にしたまま「存在感」だけは感じさせることができるというキャラの特性》が前面に表れ、肝心の性別については、「実は男だ」という設定(や作中の言表)でのみ明かされる構造になる。


 一方で、「もっともらしさ」の水準では、キャラ図像の強さは薄められ、「あくまで男の体格だとわかる」絵を描いた上で、「作中では周囲に男だと気付かれない」様子が描かれる。
 読者には男だとわかるわけです。にも関わらず、女装のもっともらしさを担保しているのは、外見ではなく「本人の仕草の女性らしさ」なのだとされます。


 つまり、この「もっともらしさ」の見せ方では、作画上の「読者から見える」男の体格が現実寄りに描かれるのに対して、作中の「他の人物から見える」男の姿は、女性らしい振る舞いゆえに身体への注意が逸らされ、女性に錯覚させている……、という落差のあるキャラクター表現になる。


 逆に男の娘への「萌え」については《「身体」への欲望からは遠く、もう一段、抽象的なレベルに向かっていると考えられる》と分析されています。
 もちろん、もっともらしさと萌え系の中間領域にある表現も示唆されており、漫画の中では両者を行き来して描かれるのでしょう。


 再度強調するならば、もっともらしさの表現では「読者が見るキャラ」と「周囲に見られるキャラ」のあいだで認識の落差がはっきり生まれるのが特徴でしょう。
 一見、写実的に描いているようで、実は作中の人間がみな、その「写実」をそのまま認識しているとかぎらない。
 写実的ということは「客観的」なのだと先入観で思いがちですが、実はそうではない。客観的に「見て」いるのは実は読者だけで、登場人物はそれぞれの主観で「認識」している、という多重性がある。


 一方で、萌え系の男の娘表現では、「読者から見える姿」と「周囲に見られる姿」の違いがひどく曖昧になります。
 読者と同じく見えているかもしれないし、まったく違う現実の層を見ているのかもしれない。
 まずそもそも、読者にそんなことを考えさせにくい、想像もしにくい。


 よって、《年齢も性別も曖昧にしたまま「存在感」だけは感じさせることができるというキャラの特性》は、「周囲にどう見られているか」という状況を曖昧に変え、作中の設定や言表によって辛うじて規定させることになる。


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 以上の前提で、ではどのような漫画表現を提案できるのか。
 先述したように、中間領域でどちらにも行き来する絵を同一の漫画内で描くことが挙げられます。
 漫画はそうした表現がむしろ大きな効果をもたらすことができる。うまく描いた作品に、つだみきよプリンセス・プリンセスなどはいい例です。


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 そしてキャラ図像の特性は、「男の娘」でなくても当てはまる表現の問題です。例えば、性別や年齢にかぎらず「可愛さ/美しさ」も曖昧にさせるということです。
 このブログでもよく言及している「美少女キャラ」表現の話も、こうしたキャラクター作画の表現と無関係ではありません。
 読者の関心は、「作中のもっともらしさ」よりも「キャラ図像の可愛さ」に強く引きつけられるケースがあります。その現象も、伊藤剛さんの言う「まんがのおばけ」に絡めて考えられるでしょう。


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 まんがのおばけの問題とは、「擬人化されたウサギのキャラがカツラをかぶれば人間のフリができる」という実例がある[図]ように、少年も着替えるだけで少女と見分けがつかなくなる。
 ウサギなら体に毛が生えているのでは、とか、さすがによく見れば男の顔なのでは、などと考えさせない作用がある。
 そもそもモノクロ漫画では「ウサギの毛皮は肌色をしてないのでは?」というリアリティから意識を逸らすことすら行われます。


 異性装をするわけでない普通のキャラクターであっても、「まんがのおばけ」の影響は強力です。
 多くの読者が感じる「キャラクターの可愛さ」とは「絵の可愛さ」のことで、「ちゃんと見れば毛皮に気付くのでは?」に似た作中の視点には関心が払われず、「作中でどう見られているのか」が隠蔽されるでしょう。


 ちなみに、少女漫画の場合はそうとかぎらず、「作中でどう見えるのか」を踏まえた表現をすることが多いと思います。
 それは、少女(女子/女性)を描くというテーマが、「他者の視線への関心」を強く含んでいるから、とも言えそうです。


 ここまでは問題提起ですが、もっと表現論として考えてみたらどうでしょう。
 伊藤剛さんの「まんがのおばけ」論は、それが単純な線の組み合わせだから起こることを強調しますが、なら複雑な線のキャラならどうなのか。
 少女漫画が「絵の可愛さ」だけでなく他者による視線を描くとき、どう表現しているのか、などです。

その感情移入は自己投影に近いかどうかを見分けてから語る

 感情移入という言葉は広い意味を持つが、その曖昧性ゆえに、対立的な事柄であっても同じ「感情移入」で説明できてしまうところがある。
 その事柄の違いを見分けてから(作品の感想などを)語ろうという話を今からする。


 言い換えるなら、「共感や自己投影」と呼ばれる心理も感情移入と呼ばれるし、逆に「同情やマインドリーディング(視点取得)」の能力も感情移入で説明することができる。


 しかし一般的には、客観的な他者観察よりも、主観的な自己投影(同一化)を指して感情移入と呼ぶことが多いだろう。


 ただし、区別できずに混同する人も多い。


 自己投影に近い意味で語られている場合、「読み手が感情移入するキャラクターの感想」がさほど現れず、むしろ主に「読み手から見られるキャラクターの感想」が現れやすいのは自然だ。
 これは一部の恋愛ゲームでも考えてみれば基本的なことなのはずが、「よく話題になるキャラクターこそが感情移入されているキャラクターなのだ」とみなす人もいるから感想をややこしくする。
 それは逆で、ただの自己投影をしているキャラクターの話なら普通はしたがらない。


 自己投影の対象が「主人公」と呼ばれるケースもあるが、感情移入をしても個性や魅力を感じるとはかぎらないし、共感できているときほど「個性」に注目しなくなるとさえ言える。
 主人公に個性や魅力を発見することが、その主人公を観察することに繋がるという仕組みについては、9年前にもみやもさんが記事にしていた。

重要なのはプレイヤーに主人公と同じ物を見せることではなく、物を見て同じことを考えているかのように錯覚させることなのです。


 とはいえ、やはりもともとは製作スタッフという他者の手で作られたキャラですから、完全にはプレイヤー側で主人公の思考と同調しきれない時がある。そういう時に「リアルの俺だったら絶対こんなことしない(出来ない)ぞ、何やってんだこの主人公」というギャップが生じます。そのギャップこそが「俺とは違う、この主人公自身の個性」が成り立つ瞬間でもあり、それはゲームを進めていくなかで実は頻繁に発生してるんですね。

身辺雑感/脳をとろ火で煮詰める日記: あらゆる「主人公」には個性がある


 みやもさんの記事では「TLSSの主人公」の個性にも触れているが、例えば「話題にならない恋愛ゲームの主人公」と「話題にされまくるアマガミの橘さん」のどちらがより自己投影されているかといえば、もちろん話題にならない主人公の方だろう。


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 その一方でプレイヤーは、観察対象でもある橘さんに感情移入することだって一応できる。
 だがそれは共感/自己投影を行っている度合いより、同情/マインドリーディングの度合いが優った方の「感情移入」だと考えてよい。

「主人公に自分を重ねない、共感しない」という見方によって、かえって好感度が上がることだってあります。
 例えば、大抵のラブコメ漫画は「読者が主人公になって恋愛した気分を楽しむ」という側面があるでしょう。
〔中略〕
 その反面、「この主人公は男として好感が持てる!」という風に、同性の主人公を「自分とは別人のキャラクター」として支持する読者がたいてい現れてくるものです。

「主人公の特徴だけで作品を特徴付けたつもりになれる言葉」の過ちと罠 - ピアノ・ファイア


姉ログ 1 (少年サンデーコミックス)姉ログ 1 (少年サンデーコミックス)
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 そういえば『姉ログ』の弟キャラは、雑誌掲載時の人物紹介欄で「靄子の弟、それ以上の情報は不要」と常に書かれていて笑みを誘うのだが、それは「情報がない」のではなく、「情報を語ってしまうと実は個性があることがバレてしまう」というタイプの主人公だから(主人公というかメインヒロインに対する脇役と言うべきか……)、と考えても納得がいくだろう。
 実際、優秀で人柄がよくてしかも鈍感という非凡な(しかしテンプレ的な性格の)男子なので、自己投影するのか観察するのか、ギリギリのバランスが試されていると言える。その点でも面白い立ち場のキャラクターだ。