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過剰な進化とムダな努力が個性に変わる/石川幹人『人はなぜだまされるのか』(講談社ブルーバックス)

Amazon.co.jp: 人はなぜだまされるのか (ブルーバックス): 石川 幹人: 本

 友達に勧められて読んだ新書です。
 「進化心理学」という分野の研究で、ヒトの心の機能を、進化的な適応の結果として説明しようというもの。


 人間の本能や認知については、他のジャンルでもよく見かける知識を前提にした説明が多く、一日ですぐ読み切れるくらいの内容でしたが、漫画論やメディア論に応用できそうな情報の再確認はできたので買って良かったです。


 いくつか、考え方として興味深いと思ったのは、人間の「個性」が生じる根拠のひとつとして「環境の淘汰圧に対して適応進化した機能が、環境変化によって役割を終えることで淘汰圧から解放されて多様化する」というプロセスを挙げている点。
 例えば、生命の危険が多い環境の中で「危険察知」の能力が高められたものの、人類が危険の薄い社会へと生活の場を移した結果、別に危なくないもの(オモチャのヘビなど)まで怖がってしまう、安全な対人関係でも不安になってしまう……といった様々な「恐怖症」が個性として生まれたというように。


 確かに、何もないところから多様な個性(=機能)が生まれるよりは、「過剰に」突出した機能の、過剰な「役立たなさ」が変化した方が多様になりやすい、というのは理屈に合うでしょう。


 これは「進化」による種の淘汰ではなく、「教育」における淘汰でも同じことが言えるような気がして、例えば受験戦争は「学力」という尺度で学生の機能を先鋭化させる方向で淘汰させますが、就職してしまうと、この尺度は(目先の)役割を失う。
 野性で最もヘビやライオンを怖がる個体が、文明社会に出たら役に立たなくなるのと、同じといえば同じです。


 でも「役目を終えた進化が個性に繋がる」と考えれば、この学力というのも、本来は「役目を終えてから個性へと多様化すること」を期待した教育なのかもしれないですね。本来ならば……という理想で考えればですけど。


 AKB48のようなアイドルの、「成長」や「努力」と呼ばれる尺度もそうで、グループダンスの振り付けをたくさん覚えたり、握手会の行列を伸ばしたりといった「成績」は、女優やタレントに転身したときには直接の役には立たないでしょうが、「努力はムダになってから個性に変わる」と考えれば、AKB48は「個性」を多様化させるシステムをうまく作っているのかもしれないですね。
 能力を先鋭化、均一化させるのではなく、個性を発見しないと生き残れないようにできているグループですし。


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追記

 同じ著者の、こちらも参考になりそうですね。


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