大場つぐみも『バクマン。』を最初から読み返したのだろうか?
今週の『バクマン。』で「一話完結じゃない一話完結」というフレーズが出てきました。
新七峰システムとの対決……自体はわりとどうしようもない話になってると思うのですが(福田さんの描かれ方も微妙だし……)、その対決にぶつけるべく主人公たちが考える「最高に面白い一話を作ろう」という方法論自体は、さすがに「マンガ家漫画」としての面白味を感じます。
この、「連載を最初から読み返すことで、伏線ではない描写を伏線にしてしまう」という手法自体は、おそらく『あしたのジョー』の逸話から得た着想でしょうね。
『あしたのジョー』を傑作に変えた「連載の読み返し」
『あしたのジョー』の場合は「最終回のアイディアが浮かばないちばてつやに代わって、編集者が『あしたのジョー』を最初から読み返した」というエピソードが伝えられています。
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大事なポイントは、ちばてつや本人さえ忘れていた描写(=カーロス戦のあとの紀子とジョーの会話)が、その行為によって見事に掘り返されたということ。
『あしたのジョー』はこの編集者によるアシストがあったからこそ、「真っ白に燃え尽きる」という、さりげない作中の台詞を、物語を締めくくる「テーマ」にまで押し上げることができたわけです。
同じように、『うしおととら』の藤田和日郎も、物語の最終決戦を描く直前まで友達に電話をかけまくって、「何か伏線はないか?」と訊いてまわっていたそうです。*1
連載作家は「連載の読み返し」をすべきか?
これを最終回ではなく、物語の転換点となる一話を作るために行う、という技を「一話完結じゃない一話完結」と呼んでいるわけですね。
『あしたのジョー』や『うしおととら』を名作にせしめた手法の、応用であるわけですが、これは多くの連載漫画家が使ってほしいテクニックだなーと思います。
ちばてつや本人がそうであったように、連載漫画家というのは、自分が描いてきたストーリーを(読者が思うほどには)記憶していない、しかも積極的に読み返したがらない、という事実がありますから。
「自分の漫画を一度最初から読み返して、最高の話を作れ」というのは、大場つぐみが他の連載作家に向けたメッセージとして取れば、なかなか刺激を感じますね。
他の連載作品でも、ぜひそんな作り方がされてほしいものです。
さて、じゃあ当の本人である大場つぐみは、今のエピソードを考える前に「『バクマン。』を最初から読み返し」たのか? という疑問も湧くわけですが……。
サイコーにとって起源とも呼べるキャラクター、川口たろう(故人)をキーパーソンとして起用しているあたり、たぶん読み返してみたんでしょうね。きっと。
で、七峰くんを登場させたころは、まだ読み返してなかったんじゃないかなあ(笑)。
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