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リソースバトルとしての『魔人探偵脳噛ネウロ』

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 14巻が発売されて、「新しい血族」との戦いが前面化したネウロですが、これから展開されるであろう、ネウロの特徴的なバトルの形式について考えてみたいと思います。

パワーバトルと相性バトル

 少年漫画におけるバトルというと、大きく分けて「強い方が弱い方に勝つ」力比べであるパワーバトルと、「相性の良さで勝敗が左右される」駆け引き重視の相性バトルという二種に分けられると思います。
 パワーバトルでは、強さの序列がハッキリしたヒエラルキーを形作りますが、相性バトルの強弱は絶対的でなく、「Aと戦うと不利だがBには勝てる」というように相対化されやすいのが特徴です。


 戦闘力を数値化したドラゴンボールや、「とにかくスケールで上回った方が勝つ」北斗の拳聖闘士星矢などは、典型的なパワーバトルの漫画だと言えるでしょう。
 ジョジョハンターハンター、ワンピース、テニプリなどは、うまくパワーバトルと相性バトルの両要素を同居させている漫画だと言えます(相性で戦いが左右される局面と、格の違いで勝敗が決まる局面が両方ある、ということ)。

 この二種類のバトル形式は、それぞれ「パワーインフレ」と「ルールインフレ」という形でインフレするのだ、と元長柾木氏がユリイカ荒木飛呂彦特集で指摘していたのが記憶に新しい所です。

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 さて、ではネウロは?
 魔人であるネウロは、一対一の戦いなら負ける相手の居ない、無敵のモンスターとして描かれます。
 また、ネウロ自身には「戦闘力の成長」という要素がありませんから、パワーインフレも起こりません。
 便利アイテムのストックを777個も持っている以上、能力的にはなんでもありですから、相性バトルもあまり意味を持ちません。相性バトルは、使えるカードが予め限定されているからこそ盛り上がるのですし、「カードのストックが多い方が勝つ」というルールではパワーバトルとあまり変わらなくなるのです(『遊戯王』のバトルを思い出してみてください)。


 ではネウロのバトル形式は何なのか……ということを考えるには、ネウロの作風に最も近い漫画を思い出すのが近道となるでしょう。
 それは横山光輝の『バビル2世』です。

リソースバトル=リソースの削り合い

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 ネウロバビル2世というのは、実は去年の『STUDIO VOICE』にちっこい記事を書いた時から提唱していたことなんですが(誰も覚えてなさそう)、無敵の力を持っているように見えるバビル2世ネウロでも、エネルギーが切れれば戦闘不能になるわけで、そこを狙えばトドメを刺せるという点でも共通しています。


 そのエネルギーのリソースを人海戦術捨て駒などを利用して削ることを、「リソースバトル」と呼ぶことにしましょう。
 そこで、皆さん大好きヨミ様は「油断・うっかり・部下思い」の三拍子が揃った超いい人なので、バビル2世にトドメを刺すチャンスを幾度も見逃しているわけですが、ここでお出ましなのがシックス先生です。


 「ヨミ様から油断とうっかりと部下思いを抜いた存在」であるシックスは、まず間違いなくネウロに勝つでしょう。 *1
 魔人ネウロは、ネウロ一人では間違いなくシックスに負けます。
 それは「もしヨミ様が遠慮しない性格だったら」という思考実験を行ってみれば火を見るよりも明らかでしょう。

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 シックスはネウロと一対一で戦わずとも、エネルギーを削らせることは可能です。例えば、大量に死人が出る災害を起こして、それをネウロの魔力で防がせる、など。
 パワーバトルと相性バトルに二極化しがちな現在の少年誌において、横山光輝的な「リソースの削り合い」……ドロドロの泥仕合の面白さを取り戻したというのも、ネウロの評価すべき点の一つだと思います。

新しい血族 vs ネウロ+人間

 そんな泥仕合必至の戦いを前にして、人間の弥子に何ができるのか? というと、ネウロに「人脈」という、魔力とは別のリソースを与えることなのではないでしょうか。
 つまり、ネウロ一人では人間と直接協力することができないのですが、弥子なら多くの人間を直接言葉で動かすことができる。
 名探偵という立場を得た弥子にそういうスケールの可能性が眠っていることは、多くの伏線が物語っています。
 また、どちら側につくとも定かではない「X(サイ)」は、『バビル2世』における「三つのしもべ」を思わせる危うさもあり、弥子がサイとどんな関係を結ぶのか、というのも鍵となってきそうです。


 よって、弥子がその口から、「ネウロに協力してあげて」あるいは「ネウロを助けて」と、今まで築いてきた人脈に対して号令するまでが、シックス編における一つの山場なのだろうと予想できるわけですが、さて。

*1:もっともジャンプの最新号でDRの戦い方を読む限り、部下レベルでは油断やうっかりが多そうですが