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赤松漫画の好み

 これもあんまり語った覚えが無いので語ってみましょうか。
 ぼくは、作者と作品に対する思い入れの比重が「7:3」くらいになっていて、作者側が圧倒してるから作品側を軽く見ざるをえないだけで、相対的でない見方をすれば、確実に作品の方も好きだと言えます。


 事実、連載時の『ラブひな』は距離を置いて読んでいましたが、後で(去年の10月頃)単行本を揃えて読み返した時の『ラブひな』は非常に面白かったです。特に、東大受かって成瀬川が主人公化してからがメチャクチャ面白い。具体的には成瀬川と素子と可奈子が可愛すぎる。あと景太郎が人間出来上がりすぎてて面白すぎる。どうも色々感想を集めてみると、後追いで単行本を揃えた人ほど後期を気に入る傾向があるような気がします。
 同時期に初読した『A・Iが止まらない!』もそうですね。初期や中期も妙な味があって好きだけど、終盤が一番面白い。


 人の好みにもよるでしょうが*1、基本的に、赤松さんの漫画は後に行けば行くほど面白くなります。これは以前も書いたことがありますが、赤松漫画の面白さを支えているのは「良く出来た素材やアイディアを思い付く」才能では決してなく、「仮に凡庸なアイディアであってもそれを脹らませて良く出来た完成品を練り上げ、実行する」才能だからでしょう。連載しながら最適化されたシステムを構築する才能と言ってもいかもしれません。
 語弊のある言い方をしてしまえば、素材に関してはコストをかけようとしてないか、早々に切り上げてしまって調理法に凝るのが赤松漫画の特徴だとも言えます。最初だけ面白くったってエンターテイメントとしては意味が無くて、後からどんどん面白くなる方が読む側としてはいいに決まってますからね。
 過剰にエッジな記号性に頼ろうとしないのも、記号が消耗品であり、限定した効果のみを発揮する素材でしかないことを考慮すれば、当然かもしれません。
 そういう、演出を限定したキャラとかシーンとか、あんまり無いでしょう。あくまで話の流れの中でキャラを立たせるし、台詞も「その場に合ったもの」を喋らせて、物語からキャラが逸脱しない。
 これは「インパクトのあるワンシーンや、華のあるキャラを作る力が弱い」と評してもいいでしょうが、逆に「構成力だけでキャラクターを動かす力がある」と誉めることもできます。そういった作風だと、物語が進んでキャラクターの内面描写が緻密になっていけばいくほど面白くなっていきます。そこまでいかない最初の内はやっぱり不利だから、生徒名簿31人とか、パンチラとかでなんとか乗り切ろうとする。


 加えて、赤松漫画はどれも掲載誌の看板作品という立場を経験している為、終盤は「人気がありすぎて打ち切ろうにも打ち切れない」期間に突入するのですが、この期間こそが本領発揮の時期と言えるかもしれません。
 なんだかんだ言ってAI止まラブひなも、「強固な地盤を築きあげた後の、好き勝手やってた期間」が一番面白い。面白くなる理由は良く解りませんが、やはり作者の勢いが上に乗るのかもしれません。ネタ切れとか言われたとしても、そういう時こそ、普段抑えていた作者の「素」が出てこざるをえないし、そこに生命感のようなものを感じられるのかもしれません(ぼくは結構、そういう言語化しにくい感性を重要視して漫画を読む方です)。
 今のネギまは、編集部に「バトル続けろ」と言われてたり、新しい読者層を取り込む画策がなされていたりする真っ最中ですから、やっぱりそういう中でゴタゴタした感じっていうのは作品に出てると思いますよ。それも全体から見れば必要な期間ですが。
 「人気がありすぎて打ち切ろうにも打ち切れない」期間が来るのはまだまだ先でしょう。でもネギまで、その期間の連載を読むことになるのが、今は楽しみだったりします。

*1:単発エピソードと続き物のどっちが好きかとか。物語のまとめに入る終盤では、必然的にエピソードが大河的にならざるをえないので