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『群像』掲載の佐藤友哉の短編「チェリーフィッシュにうってつけの日」「小川のほとりで」読了(ネタバレ)

izumino2004-07-09

 素晴らしいんじゃないか?
 と言っても、ここ数ヶ月の間、小説といえば今野緒雪少女小説をちょっとと恩田陸と佐藤舞城しか読んでいなかった人間の言うこっちゃないですが。
 プロットはタイトル通り『ナイン・ストーリーズ』内の「バナナフィッシュにうってつけの日」と「小舟のほとりで」からのほぼ借り物ですね。登場人物の血縁関係と、会話の内容やオチが微妙にズレている。
 まず2本共に共通して言えるのは「読んだ後に眠くなる短編」だということでしょうか。「エズミに捧ぐ」や「ゾーイー」を読んだ人なら解ると思いますけど、今回の佐藤はあの読後イメージを再現しようとしたんじゃないかと思えるところがあります。あの安眠できそうな優しい読後感。


 さてテーマ的な感想に入るとすると、今回の登場人物の中で一番成長(変化)できたのは鏡稜子であって、それを表現してるんじゃないかなあ? と感じました。創士に「救うよりも破壊の方が向いてる」と言われていた彼女が、後の「鏡姉妹」で妹想いな一面を見せ『フリッカー式』では(曲がりなりにも)他人の為の行動を続けていたのは今回の経験が契機になっていたのではないかとも。*1
 逆に創士は、つくづく「ゾーイーになりたいけどゾーイーになれないゾーイー」として描かれていて泣けますね。ってサリンジャー読んでない人置いてけぼりな感想ですみません。


 「チェリーフィッシュ」の方は癒奈お姉さんハァハァ小説でした。萌える。チェリーフィッシュ云々のくだりは適当に読み解けそうな気もしなくないですが、分析せずにほっといた方がいい気もします。余談ですが、自分の脳内ではこのイラストの眼鏡無しバージョンに置換しながら読んでましたよ。こんな感じで萌えません? 俺だけですか。
 「小川のほとりで」はストレートに「過去に縋るな」ということを伝えているわけで、それは「過去に縋った人間の末路」ばかりを延々描き続けていた佐藤作品(「色シリーズ」や「死体と、」など)とは対極に位置する物語でしょう。ここらへん、佐藤友哉の作家論からすれば新たに加わるファクターではないかと思いますし、例えば森田(id:marita)さんあたりがこれをどう読むのかは興味がありますよ。とか。

*1:以下ネタバレにつき注意:元ネタでのブーブーは息子と「家までの追いかけっこ」をして、息子に勝たせることによって彼の自立と成長を促している。逆に、ここでの稜子は佐奈に追い抜かれたとは書かれず、自分が先に家へ帰っている。つまり、本当に自立したのは稜子だ、とも言える