単行本は、なんでこんなに雑誌で読んだ時の記憶と違ってくるんだろうか?
聞いてください。
『週刊少年チャンピオン』で連載中の『聖闘士星矢 冥王神話』……通称「手代木星矢」の最新刊が出ていまして、リアルタイムで読んでいた時に大好きだった「ベヒーモスのバイオレート編」が収録されていたので買ってみたんですよ。
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しかし、んんん……? チャンピオンで読んだ時の、異様なテンション(熱量)が感じられなくなってるぞ。
それに、こんな短いエピソードだったっけ?
あの当時の盛り上がり感は、なんだったんだろう、と気になってしまって、まず「たんに単行本のサイズが雑誌よりも小さいからかな」と考えてみたのですが、それだけの理由ではなさそう。
いや、そうか! この単行本って、各話の「ヒキ」のページが、次の話の1ページ目とシームレスに繋がった形になってるから、毎回の「ヒキ」が弱くなってしまってるんだ、たぶん……。
あともちろん、「アオリ文」と「アトヒキ文」の有無の差も大きいですね。なぜなら、文字としての情報がそれだけ増えていれば、当然「そのページに感じる時間」も長く(永く)なるわけですから。
こういう(見方によっては残念な)違いが出てしまうことって、出版サイドで意識してほしい問題ですよね。
ちなみに『週刊少年ジャンプ』の単行本はどうかというと、もともとの連載が一話19ページを基本にしていますから――、ページ数が奇数ということは、必ず「ヒキのページと次の1ページ目」の間に白紙が挟まるように出来ています(つまり毎回、左側のページで終わって、めくったら右側に「白紙」があって、その左側に「次の1ページ目」が来るという順番になる)。
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好意的に考えてみれば、ジャンプ編集部は単行本化時の「ヒキ」の重要性を敏感に意識してくれている……、と言えるかもしれませんね。*1
最後に、「雑誌と単行本のメディア的な違い」を列挙した、以下のエントリからいくつかピックアップして、まとめということにしましょう。
身辺雑感/脳をとろ火で煮詰める日記: 同じ漫画を雑誌で読む時と単行本で読む時の体験の違い一覧
・雑誌にはアオリやハシラ、次回予告などがある、単行本には(基本的には)無い。アオリが芸にまで昇華されているケースでの、その有無は大きな体験の差をもたらす。
・雑誌は1話ごとに現実の時間が間に置かれ、最新の情報について吟味する猶予ができる。数分数秒を争うような盛り上がったシチュエーションでもいったん冷却期間、もしくは逆にもどかしい焦らしで妄想を焚き付ける燃焼期間が"強制的に"もうけられる。
- 補足するなら、この「猶予のある時間」には、「友達と感想を言い合ったり、web上で発言することで意見を固めたりする」ような行為も含まれることになる
- ちなみに、いずみのは毎週「今週のバイオレート様が〜」と友達に喧伝していました
対して、単行本はある回と次の回が間をおかずに続くので、数分・数秒を争うようなシチュエーションを一気呵成に読んでしまえる。逆に言うと、自発的に手を止めないかぎりエピソード間で情報の入力を中断してじっくり考えるインターバルがない。
・雑誌と単行本の面積の違い。版型にもよるが、雑誌の大きなサイズと単行本のハンディなサイズでは、たとえば見開きのインパクトや、逆に小さなコマに織り込まれた情報から受ける印象が異なる。ストーリー漫画においては「コマの大きさ」とドラマ上の「意味の強度」は比例しやすいのだが(決めセリフ、決めゴマほど強調のため大きくなりやすい)、このときページ内比率で大きく描かれていても本そのものが物理的に小さい場合、いくらか刺激が和らぐ可能性がある。
追記
一話完結の読み切り形式で書かれている『成恵の世界』のような作品ではどうでしょう。
成恵も「白紙を挟まずに単行本化」しているケースなんですが、うっかり「オチ」と「次回の1ページ目」を繋げて読んでしまって、「あれ? この話って別に繋がってないよね?」と慌てて確認しなきゃいけなくなったという、別の意味で困った読者さんが多いんじゃないかと思います(←これはこれで『成恵の世界』の「味」だと思えるような良さもあるんですけどね)。
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