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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

昨日の赤松健インタビューについて

まだ言い足りない所があったので一つだけ補足。絵に関する話なんですが。

目から目がどのくらい離れているか。顔の縦横比率とか口の位置など、数値的なものですね。私はそれを「パラメーター」と呼んでいます。

 こういう発言。キャラ絵を描いたことの無い人──というか、画力が上達して絵柄が変化した経験が無い人──は解りづらいでしょうけど、これは「デジタルな数値」じゃなくて「アナログな数値」を言い表しているんですね。いわゆる「力加減」という微妙な領域のパラメーターです。
 「数値」というとデジタルな思考を連想されるかもしれませんが、これはむしろ「カン」と言ってもいいでしょう。
 ちょっと絵柄に対して敏感なタイプの絵描きなら「目の水平線を中心にしておでことアゴまでの間隔の対比を変えるとどう印象が変わるか(上手い人はそれをどうしてるか)」「頭蓋骨と胸郭の大きさの比率はどうするか」「頭身を上げるか下げるか」くらいのことは誰でも考えますし、ある程度は6:4とか5.5:4.5とか数値化して、あるいは図形化して記憶しておきますが、最終的に頼りになってくるのは、やはり自分のカンであり、アナログな情報です。逆に言えば、カンが無ければいくら数値化しても無駄だとも言えるでしょう。


 赤松さんはパソコン部出身で文学部専攻、でも卒論は自作のプログラムを提出、という理系(デジタル)なんだか文系(アナログ)なんだか捉え所の無い人なんですが、ことあるごとにアナログ派の人間であることを強調しているのが面白い。カメラとかオーディオの世界がそうなんですが、これらの世界は力加減、アナログな情報を認識できる感覚、「カン」が発達してないと満足に楽しめないわけです。
 だからここで「赤松健は最新の絵柄をデジタルに数値化してるんだ、凄い」と感心する人は(そういう人が少なくなさそうだからアレなんですが)「絵を描く」という行為の意味を少し勘違いしていますよ、と注意したくなりますね。
 自分の絵柄に満足してない絵描きなら、少なからずやってることだと思うんだけどなぁ。*1その努力が功を奏すか奏さないかは別として。
 また、そういった曖昧な情報をアシスタントに伝えて、絵柄をコントロールするのも作者の仕事なのだと思います。




 あと、インタビュアーの質問内容を読んでいて笑えてしまうのも絵に関する話。
 最初から最後まで一貫して、赤松漫画の魅力は絵柄にあると思ってるみたいなんですけどね。

──そうして吸収して、かわいい女の子を描けるヴィジュアルのセンスがあれば、魅力的なキャラクターをつくれるものなのでしょうか。

2頁目でこういう質問して、いや、絵柄でキャラを作るのにも限界があるんだとやんわり否定された後、5頁目になっても

──しかし、写実ではない線で、人に愛される造形を描くというのは、その時点で天才の所業だと感じます。

まだ絵だけで評価しようとしている(笑)。
 一体何の話を今まで訊いてたんだ、この人は。わざとズレた話題を振って本音を訊き出す、という高等テクニックのような気もしますが。

*1:手前味噌ながら、今この日記の左上に置いてある絵の絵柄もそうやって出来たもの