香魚子さんの短篇集『さよなら私達』『隣の彼方』『もう卵は殺さない』
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以前紹介した『魔法使いの心友』の作画である、香魚子(あゆこ)さんの短篇集。
刊行順は上に並べた順ですが、新しい方から逆に集めて読んでみました。
『もう卵は殺さない』
美人や天才に羨望しつつ引っ張られる話が、四本中半分の短篇集。
連載作の『シトラス』や『魔法使いの心友』もそうなのですが、「同性への嫉妬や憧れ」を、(決して綺麗ではない、汚い感情も含めて)描くことが原点にある作家さんなんだなと伝わってくる内容です。
表題作がメタ創作ものになっていて、これも面白かった。
それにしても、ぱっと見で「うわー小顔」ってわかる美少女の描き方(描き分け)のできる絵は良いものです。
『隣の彼方』
いきなり最初のフルカラー短編の読後感がすごくいい。
しかし一方、他の短編はけっこう毒のある内容だからか、翌日になっても後味が残っていたくらいでした。研いでない刃物で切りつけられたような痛さというか。
創作の原石(モチーフ)があったとして、それは良く磨かないとエンタメになりきらないものだと思います。
それは『卵はもう殺さない』の表題作でも自己言及的に描いていることなんですが、この時点の香魚子さんの短編は、「スッキリ気持ちよく終わるエンタメ」と「飲んだ後に後味が残るような原液」との中間にあるような感じです。
樋口橘さんの初期短編を連想したんですが、新人の頃の樋口橘さんも「うまく割り切れないようなオチの短編」を良く描いていたものでした。
本人はハッピーエンドだと思っていた話でも、どこか納得いきにくいオチになっていて、読者の感想が賛否で割れるたびに「これからもっとみなさんに楽しんでもらえるものを作っていきたいです」みたいなコメントを謙虚に繰り返していたのが印象的でした。
その結果、ちゃんと『学園アリス』のヒットに繋がってるんですよね。
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思うに、新人の少女漫画家には「どうしても何かを描いてしまうような衝動」が大事で、最初からエンタメとしてまとまった作品を発表するのも良し悪しなのかもしれません。
どうしようもなく描いてしまうような「原液」を持つことこそが大事であって、そんな短編作りを重ねながら「エンタメへの昇華の仕方」を学んでいった方が良い、と。
特に少女漫画家には、そういう段階を積ませていく編集部のセオリーが根付いている気がします。
香魚子さんの短編集も、「これが今の連載に繋がったんだな」と感じいる要素が多いだけに、なおさら必然性を感じますね。
『さよなら私達』
デビュー作も含まれた、最初の短篇集。
やはり「私、やなやつかも」と自分で思うようなヒロインや、後味が必ずしも良くないような毒のある話が多いです。
ちょっと勧めにくい作品ですが、好きな人はすごく好きになるかもしれないタイプですね。
絵柄は少女誌の絵柄っぽくない(仮に挙げるとしたら『comicスピカ』に載ってそうな?)と言われつつ、一本目だけ『りぼん』的な丸ペン絵柄に合わせようとした痕跡も。
基本的にデッサンの取り方が上手すぎて、少女誌の絵からは浮いてしまうんでしょうね。
しかし感情の流れの描き方はやはり少女漫画で、独特なバランスの作家だなと改めて思います。
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