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電撃大王の『魔法科高校』スピンオフは少女漫画風味

電撃大王 2012年 06月号 [雑誌]電撃大王 2012年 06月号 [雑誌]

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原作者提供のシナリオによる公式スピンアウト

 魔法科高校の劣等生のコミカライズ第二弾、魔法科高校の優等生が今月の月刊コミック電撃大王でスタートしています。


 原作のストーリーをコミカライズしている『Gファンタジー』版(タイトル同じ)に対して、『電撃大王』版は主人公の妹・司波深雪を主役にしたスピンオフ作品、になるという話だったのですが……。


 なんとシナリオが原作者書き下ろし
 同誌で連載中の『アクセル・ワールド』のスピンオフ(→試し読み)は原作者が監修したシナリオになっているそうですが、『魔法科高校』のスピンオフも公式シナリオと思って読んで良さそうですね。

少女漫画の画面

 作画担当である「森夕」さんのプロフィールは明らかにされてないのですが、これは女性かな? と思わせられるくらいには女性的なセンスの絵と画面構成で、第一話の印象はまさに少女漫画的。


 ここでいう「少女漫画的」というのは、夏目房之介さんの持論を借りた言い方になるんですが、女性的な視覚センスというのは「描きたいもの、見たいもの以外は描かずに白い背景のままにする」というものです。


 「キャリアを重ねて、漫画がうまくなればなるほど原稿が白くなっていく」のが女性の漫画家の典型なんだ、という言い方もできます。


 逆に男性的なセンスというのは、青年漫画でよく見かける写真トレスの背景が典型的なように、カメラフレームの中に「存在する」ものは全部みっちり描き込んでしまうというもの。
 絵がうまくなったり、優秀なアシスタントを多く雇えるような立場になるほど、「密度が濃い原稿」になっていくとも言えるでしょう。


 森夕さんの漫画も、「見たいもの」だけが絵になっていて、要らないものは描き込まないバランスが漫画的に絶妙、という印象です。
 無駄な情報が削られているおかげで、「作者が見せたいもの」だけに集中してずっと眺めていられる画面構成になっている。こういう「少女漫画っぽい」目線の作品は個人的にも好みですね。


 これがデビュー作だとすると、単純に「漫画としての絵」を描き慣れていないという理由もあるんでしょう。でも夏目さんの説で想定されているような「少女漫画家」にしても、デビューが早いタイプが多かったと言われる職業です。
 そんな才能が集まるジャンルだからこそ「描きたいものだけが絵になりやすい」のであって、そんな中から「いくら漫画がうまくなっても原稿が白いまま」と評される作家も残っていくのでしょう。


 『魔法科高校の優等生』の場合、具体的にはどんな目線かというと、まずヒロインの顔が一番しっかり描かれます。他のモブは、表情が簡略化されています。そして、少女漫画ならば「相手役」にあたるヒロインの兄(原作では主人公)ですら「平均的」な特徴のない顔で描かれるというあたり、作者の「目線」=ヒロインを中心にした描写が行き渡っているイメージです。


 視点的に「他者」として登場するキャラクター(老人や中年の男性キャラクター)にかぎって彫りの深いディティールで描かれるというのも、少女漫画では起こりがちな視覚化現象ですね。
 スコット・マクラウドの漫画論でも触れられていることですが、「抽象化された概念的な顔」ほど「自分に近い親密さを覚えるキャラクター」に見えて、「ディティールの細かい写実的な顔」ほど「他者のような距離感を覚えるキャラクター」に見える、という法則がここでも当てはまっています。


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男性向けの誌面と少女漫画テイスト

 それにしても、女性読者の多いであろう『Gファンタジー』はヒーロー視点の「女性向け少年漫画」風で、男性向けのていで作られているであろう『電撃大王』ではヒロイン視点の少女漫画風に描かれている、っていうジェンダーのアベコベさは面白いところです。


 どちらにせよ、メインとなる描写は兄×妹のノーマル(?)カップリングなので、それが兄視点か妹視点かという違いではありますが……。


 いわゆる「萌え」を意識すると、女性向けには「少年漫画風味」なヒーロー中心のテイストを、男性向けには「少女漫画風味」なヒロイン中心のテイストを提供するのは理に適っています。
 でもこの『魔法科高校の優等生』は、『電撃大王』の中でも特に少女漫画らしい描き方なので、雑誌の中で少し浮いて感じるくらいですね。

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