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読書メモ/マルコ・イアコボーニ『ミラーニューロンの発見』

 原題は『Mirroring People』。

ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ新書juice)ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ新書juice)
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私たちの脳にある一部の細胞――すなわちミラーニューロン――は、自分でサッカーボールを蹴ったときにも、ボールが蹴られるのを見たときにも、ボールが蹴られる音を聞いたときにも、果ては「蹴る」という単語を発したり聞いたりしただけでも、すべて同じように発火する。この単純な事実が、驚嘆すべき結果を呼び新たな理解をもたらすことになる。〔p22〕

 ぼくが2007年の間に書いた『漫画をめくる冒険』上巻で、少しだけ触れていたのがこの「ミラーニューロン」ですが、当時読める資料は少なく、研究内容も断片的だったことが思い出されます。

漫画をめくる冒険―読み方から見え方まで― 上巻・視点漫画をめくる冒険―読み方から見え方まで― 上巻・視点
泉 信行

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 共感や同化、主観化などの現象をメディア論的に紐解く上で、直観的に感じていたことを説明するのに有効そうだったのがミラーニューロンでした。でも当時の知識だと「たぶん、これで裏付けできるだろう」レベルで、あまり実証的なことは言えない雰囲気だったと覚えています。


 それからちょっとの時間が経つと、あっという間に実証的なレベルにグレードアップしているようです。これは頼もしい……というか面白い。
 (ぼくの漫画論とは直接関係しませんが)例えば、こんな研究成果が紹介されていて面白い。

この「音声知覚の運動指令説」が言っていることは要するに、私たちの脳は話をしている自分自身をシミュレートする(!)ことによって他人の発する音声を知覚している、ということである。


(中略)


他人が話しているのを聞いている間の人間は、話し手とそっくりな舌の動かし方をしていることが実証された。


(中略)


 この研究を受けて、当時、私の研究生の大学院生だったスティーヴン・ウィルソンがfMRIを使っての検証実験を行った。被験者が一連の音声を声に出して言いながら、同時にイヤホンで別の人間が同じ音節を言っているのを聞いているときの、被験者の脳の活性化を調べたのである。その結果、調査されたすべての被験者で、自分が発生しているときに活性化される運動性言語野が、他人の発声を聞いているときにも活性化していた。したがってファディーガの実験もウィルソンの実験も、私たちの脳の運動性言語野が他人の発声を聞いているあいだも、まるで自分が話しているかのように活性化することを明らかに示している。〔p132-133 強調筆者〕


 これって、黒川伊保子の『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』の理論を裏付ける話ですよね。

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 『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』は、著者である伊保子さんの、女性的な説明の仕方があまり学術的ではなかったせいか、真剣には見向きのされない研究だったと思うんですけど、ぼく個人の実感としては「正しいだろう」と考えていた内容でした。

 『怪獣の名は〜』の中ではサブリミナル・インプレッションと呼ぱれていますが、言葉を聞いたり読んだりすると、人はその音声に応じた「口の動き」を脳の中で再生するので、その「口内の感触」が語感となる……、という理屈。
 ミラーニューロンは音声ではなく文字にも反応するようなので、「言葉を聞くだけではなく読むだけでもサブリミナル・インプレッションは生まれる」という説は裏付けられそうです。


 まぁ上記の「ウィルソンの実験」は2004年の発表で、黒川伊保子の本も2004年ですから、同時期の研究だったみたいですね。
 2006年にはNHKからテキストを出し直しているので、その時点で追いついている可能性はありますけど、まぁ伊保子さんは「実証的なものを利用する」のがうまくない人なので、我々はアイディアだけを借りればいいと思っていますが……。

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