津田雅美『eensy-weensyモンスター』発売
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なんとなく「ewモンスター」という略称を使ってきたのですが、以下そう略します。
ewモンスターの面白さは、簡単に分けるとふたつあって、そのひとつは、津田雅美がデビュー当時から描き続けてきた、
- 「エリート同士による、自己評価と他己評価のズレ」
- 「コミュニケーションの行き違いと和解」
……が織りなす世界観、を楽しむ所にあります。
アニメ化もされて有名な『彼氏彼女の事情』を基準にして読まれることも多いと思いますが、カレカノよりも、初期短編集を踏まえておいた方が、その描き方の変化を意識しやすいでしょう。
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津田雅美によるディスコミュニケーション(と、その後に訪れる和解)の描き方はとてもユニークかつ楽観的で、読んでいて非常に心地良いものがあります。
もうひとつは、漫画家としての津田雅美が、コマ割り・ネームの技術を洗練させていく方向に進歩している様子、を眺める面白さですね。
身辺雑感/脳をとろ火で煮詰める日記: 津田雅美の新作は大きなスクリーンと少ないテキストで効果的に物語を伝える
LaLa誌のなかでは「金色のコルダ」などホスト部以上に文字が多いものがいくつもありますので、ewモンスターの寡言志向っぷりはきわめて独特のポジションにあるといえます。
そして大事なのは、これだけ少ない字数でありながら、ewモンスター劇中の情景や描かれている人間心理というのは、とても深く広く豊かに伝わってくるってことなんですね。そこが不思議というか、すごい洗練度。
まるで俳句みたいな漫画だな。
上記は、単行本未収録の『月刊LaLa』連載分に対するみやもさんの感想ですが、この「まるで俳句のような漫画」という評し方はなかなか的確だなぁと思います。
何度かウチでも言ってきたように、「ミニマリズム(=最小限主義)で漫画を描く」という志向性の存在を示唆しているんですね。
今まで、「俳句」のように洗練された漫画……というと、それこそ4コマ漫画や、ショートコミック(8ページ以下のとか)のイメージしか無かったでしょうし、かといって「猫村さん」まで行っちゃうとエッジすぎます。
「寡言志向」が行きすぎると「サイレント漫画」になりますが、それがミニマリズムかというとまた微妙で、言葉の無いコマがやたら多いっていうのは、逆に「絵による説明が冗長である」とも言えるわけで、志向性としては別ラインにあるものでしょう。
んで、ewモンスターのような「寡言志向」に注目するということは、「漫画の面白さ」を語る指標のひとつになりうると思うし、まぁ言ってしまえば「文学性」にも繋がりうる志向性なんですね。
あ、でも「津田雅美だけがスゴイ」と言いたいわけじゃなくて、こういう「俳句のように言葉を絞った漫画」という「指標」を用意して、それらにスポットを当てること自体に価値があるような気がするわけです。
その点で言えば、よしながふみもかなり言葉少なにストーリーを語るタイプのような気がします(←これは要検証)。
このタイプの漫画家(ぼくの呼び方で言えば「ミニマリストの漫画家」)が他にも存在するのは間違いないんですが、ちょっと探して集めてみるのも有意義なのではないでしょうか。