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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

「萌えって何?」のテンプレート

一般人「萌えってどういう意味? 恋愛感情とどう違うの?」
オタク「古来から恋に恋するっていう言葉があるでしょう? あれと似たようなもんですよ。恋に恋するっていうのは言い方を変えると空想、悪く言えば妄想なんだけど、頭の中で──時にはテキストやピクチャーに変換することもあるでしょうが──相手の魅力やら可愛さやらを深く反芻する。メルヘンな気持ちだけでなく、大胆な自慰行為が伴うこともあるでしょう。そして大抵は反芻するだけの疑似恋愛で終わる。大体はそれと同じ、というかまったく同じです。対象がフィクションかそうでないか、はあまり関係ありません。少女漫画やドラマで恋に恋することはあるでしょう?」


一般人「じゃあ、なんで恋するって言わないの?」
オタク「萌えに独特な使われ方があるとすれば、その空想を誰かと交換しあう時のキーワードになっているという点です。萌え、と口走った時には、自分が誰に魅力を感じているか、どう好いているかといった自己主張の情報が含まれることがあって、そのキーワードを知ってる者はそこに注目します。相手の空想内容から学んで、自分の参考──人の好きな相手を自分も好きになったり、自分オリジナルの空想を作ったり──にしようと考えるわけですね。そして、そうやって育んだ空想を発表し、誰かに好かれること自体が気持ちいいのでしょう。自分の好きなものや作ったものが好かれる、というのは自分自身が好かれることに似ていますからね。言葉は情報を交換する必要のためだけに生まれますが、まさしくコミュニケーションの道具としてのみ萌えという言葉は発生し、使用されています。近年クリエーターの側から萌えをキャッチコピーに用いることが増えたのは、そのコミュニケーションと空想の輪の中にプロの創作者も参加するようになったということでしょう」


 「萌えって何?」と訊かれた時に識者の多くが返答に詰まるのは、「言葉を定義できないから」ではなく「既存の言葉と全く同じ内容だから」だ。回答者は萌えの定義を考えているようで、実際は萌えの同義語である恋の内容について思索を巡らしているから返答に詰まるのである。言うまでもなく「恋って何?」に(言葉遊び以上の)解答は存在しない。
 「萌えって何?」という問いに対しては、定義なぞは既存の言葉に任せてしまって、その用法に話の矛先を逸らすのが得策と思われる。
 「恋に恋する」の「恋」という響きに違和感を感じる人なら、「恋に恋すると似たようなもので、可愛さ自体を可愛がるような所があるんですよ」とでも置き換えておけば良い。これは「可愛いとどう違うの?」と訊かれた時の受け返しとしても用いられるだろう。

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