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映画『スノーホワイト(2012年)』感想

映画『スノーホワイト』公式サイト 大ヒット上映中!

 原題は「Snow White & the Huntsman」。

 『スノーホワイト』をどう楽しむかという基準は、何より「元の童話をどう作り変えたか」にありました。
 童話としての『白雪姫』は、


「娘を抹殺しようとする母親(継母とはかぎらない)の恐怖」

「母親の殺意に負けない娘の心の不滅性」


を同時に描いたもの、という心理学的な解釈がある一方で、本作ではファザコン的な心理要素をヒロインに加えることで、逆エディプス(エレクトラ・コンプレックス)の物語に落とし込んでいたのが新鮮でした。


 男に裏切られつづけた挙句、手持ちの武器が「自分が美しければ美しいほど威力が上がる魔法」と「美女から美しさを奪う魔法」の二種類しかない継母(女王)の設定が強烈で、人生を破綻させてしまうフェミニストの典型のよう。
 女王にとって、信頼できない男たちは恐怖で支配すべき対象なのですが、そのために自分は永遠に美しくなければならない。そんな炎の階段を生まれながらに登らされている、カッコいいけど可哀想なキャラです。


 対するスノーは、原題に含まれた「the Huntsman(猟師)」に守られて旅をすることになります。
 そして女王の毒リンゴによって死にかけた際、「妻を亡くした男の人って可哀想」「女は男の人を慰めてあげるのが役割」という、ファザコンを通した「理想の女性」像を心に描くことで、毒リンゴの呪いを破っています。
 この猟師は、彼女の父親(王様)と共通する「妻を亡くして悲しむ寡夫」という設定を抱えてまして、元の『白雪姫』で影の薄かった「父親」という存在をさりげなく際立てる役割になっています。


 彼は、少女漫画でいうところの「相手役のヒーロー」に当てはまるでしょうが、「王子様役」というより「ナイト役のおじさま」を演じていたというのも「少女漫画っぽい」ところですね。
 実はスノーホワイトにとっての「王子様役」は別にキャスティングされていて、猟師はあくまで「少女を守りながら自立を導くおじさま」ポジションに終始しています。


 それでも『スノーホワイト&ハンツマン』とタイトルに含まれるほど重要な役どころなのだ、というのが映画のテーマを良く表しているようです。
 最終決戦、スノーホワイトと女王の一騎打ちにおいても、小娘に向かって「強い女性像」を剥き出して圧倒してくる女王を破る勝因となったのは、「父性に従うこと」=猟師から学んだ通りに戦うこと、だったりします。


 というわけで「お姫様×おじさまナイトキャラ」が好みの人は結構萌えて楽しめるんじゃないかと思います。
 映画の尺は二時間を超えていて、ちょっと長めですが、意外と女優陣よりも男優陣がよく映っていたかも? と思うくらいなので女性向けの映画なんでしょう。まぁ映画としては『トワイライト』からの流れですしね……。


 ところでグリム童話というのは、物語にキリスト教の影響を入れるか入れないかでメッセージ性が変わってしまうものなのですが、本作はガチッとキリスト教の影響下で作られたシナリオなんだろうと思います。
 「母親による娘殺し」を悪として描くというよりも、「夫を愛さない妻」を、キリスト教的な結婚観に基いて否定的に描いている印象を受けましたから。