如月ゆすら『リセット』2巻/愛されて愛されて愛されまくるファンタジー
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バナーも貼って応援している、Web発の女性向けファンタジー小説『リセット』。
発売日からちょっと経ちますが、ようやく読むことができました。
万民に勧めるような作品かというとちょっと違うかもしれませんが、世にも珍しい(?)「まるで自分のために書かれているような」小説のひとつです。
- Webの「試し読み」時点における感想:オンライン小説からの商業化作品、如月ゆすら『リセット』 - ピアノ・ファイア
概要
1,2巻の概要を説明しようとすると、1巻のころは「ヒロインの千幸が来世でルーナという美少女に生まれ変わる物語」として認識できていたのが、2巻になると「千幸という前世を持つ美少女・ルーナがヒロインの物語」という認識に移り変わりつつある……という違いが生まれているのがポイントだと思います。
というのは、この作品にとって「悪い読み方」だと思われる「読み方」があって、注意しておきたいくらいなのですが、「来世で生まれ変わっていい暮らしをする」という願望充足小説として読んではもったいない、というのがあります。
千幸を主体に「来世の物語」として読むのではなく、どちらかというと「不幸な前世」というバックボーンを持ったルーナの物語を主体にして読むことの方が大事でして。
オーバースペック気味なルーナのスペックは、(前世の記憶を持つことも含めて)「彼女にとって天性の、天与のもの」と思った方が感じ入るところが多いのです。
魅力
この小説の見所(読みどころ)はなんといっても、すくすく成長中の超絶美少女ルーナ(8歳)が、家族・周囲の人々・精霊・神獣に至るまで愛されて愛されて愛されまくるシーンなのですが、そういうシーンは「客観的に眺めるような視点で愛でる」という立場で読むのが本領であって、ヒロインへの同一化や感情移入を第一に読もうとすると齟齬を起こすと思うのですね。
客観的……というよりは神の視点で展開する三人称小説なので、ルーナの内面や内語も描写される物語です。
しかしそこでルーナの内面と同一化をはかるよりは、「ルーナ本人は周囲から愛される幸福が当然だとはけっして思ってなくて、素直に感謝している」という(前世あってこその)謙虚な内面を窺い知ることで、よけいに際立つルーナの美少女オーラを満喫した方がよいのです。
たぶんですけど。
そして2巻は、1巻でも予兆があった通りに「幸福な人生だが、平穏な人生ではない」「幸福な人生を送れる世界だが、平和で清らかな世界でもない」という大局的な状況にスポットが当たるようになってきます。
そんな世界だからこそ家族はルーナを大事に守るし、大切に感じることのリアリティもある。
ファンタジー世界の人々の側からすると、ルーナの誕生と成長は、天使のような少女どころかほんまに天使がつかわされる構図ともいえる。ルーナたんマジ天使。
身辺雑感/脳をとろ火で煮詰める日記: 如月ゆすら『リセット』感想 - それはどちら側への“お恵み”なのか?
前巻の感想でも書いたことの確認になりますが、千幸の転生は誰が幸せになるかがすごく両面的で、「むしろこの穢れ多きファンタジー世界にとってこそルーナという美しい存在が癒しであり救いになる」という
身辺雑感/脳をとろ火で煮詰める日記: 如月ゆすら『リセット』第2巻感想 - 「幸せになる」イコール「辛い目にあわない」ではない
ここでさらに「ルーナを客体として読む視点」も必要になってきます。
つまり、『リセット』という物語は「千幸を主体とした転生モノ」から「ルーナを主体にしたファンタジー」へと移行するだけでなく、「その世界の住人を主体にしてルーナの誕生を歓迎するファンタジー」へと裏返っていく構造にこそ魅力があるわけです。
続刊に向けて
その上で『リセット』の重要な問題は、このルーナがまだ8歳であること。美少女としてのポテンシャル(魔法使いとしてのポテンシャルもですけど)はまだまだ伸びしろを残している!(むしろティーンに成長してからが本番) というのが末恐ろしい話ですね。
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