上京振り返り日記
一日目/漫画史研究会
今回の上京の主目的は、漫画史研究会で伊藤剛さんの発表を見にいくことでした。26日の朝に家を出発です。
行きの新幹線では、うまくネット可能な自由席に座ることができたので、Twitterしながら東京駅へ。
漫画史研には個人的な友達として、吉田アミさん、麻草郁さん、LDさんを呼んでいたので、駅前で合流しがてら、最近終わったばっかりのTV版『Phantom』最終回がいかに酷かったかと麻草さん・LDさんに話す。
それで伊藤剛さんの発表は、用語レベルで検討中というものもあるような、かなり基礎原理的な話でした。
まだ理論的に煮詰められてない話だということで、伊藤剛さんもディスカッションが目的だったようです。特にぼくからのツッコミが所望だったらしく、「ちょっとこっちこい」「もっと意見しなさい」的な指示を受けつつ、ディスカッションに参加。
この日は、東北大学の岩下朋世さんも日帰りでいらしていて、漫画論の世界でなんとなく通用している「キャラ・コマ・言葉」の三分類について一緒に異議を唱えるなどしていました。
「キャラ」と「コマ」の定義をもっと限定的にした方が、核心的な分類になるのではないか? キャラというのは「絵と絵の同一性を担保できるもの」をそう呼べばいいのであり、コマとはシンプルに「空間」を意味すると考えれば、複数の「コマ(=空間)」の中を「キャラ(=同一物)」が貫くことによって時間が必然的に生まれると考えられて……かくかくしかじか。
ここらへんは夏目房之介さんの講義「ヘンなマンガ」に触発されて(特に吾妻ひでお論に)、ぼくが個人的に考えていたところであります。
二次会の席では、麻草郁さん、LDさんと同じテーブルに座って、コミュニケーションや人の人格についての討論。
この頃、ぼくが考えていた「人のバカさ具合を示す例え話」というのがあって、その説明をしたりする。
どういう喩えかというと、
テストで自分の解答に充分な手応えを感じて意気揚々と帰宅してから、いっちょ自己採点してみるかと思って確認してみたらガッカリするほど「合っていたと思っていたのに間違いだった」問題だらけで大いに落胆・反省して自己嫌悪していたら、実際のテストの答案はその自己採点すらも下回る赤点だったというくらいのバカ
……というもので、まぁ誰にでも当てはまりうることなんですが、ただバカな間違いを犯すだけでなく「そのバカさ加減に対する自己採点」すらも根底的に間違えてしまい、現実の「本人の想像を上回る愚かさ」と直面できないくらいの愚かさをこそ本物の愚かさだと呼べるという話です。
この時に藤本由香里さんの仲介で、BD研究者の野田謙介さんと二日後に合う約束を取り付けていました(フランスの漫画、BDにおける視線誘導論の在り方を聞いておきたかったため)。
あと、片山あやかと麻生羽呂が新人だった頃の読み切りの切り抜きを吉田アミさんに貸しました。
二日目/打ち合わせと打ち上げ
翌27日は某誌の編集さんと神保町で打ち合わせして、その後、Webスナイパー編集部の催しでヱヴァ破鼎談記事のトリオ(ぼくとさやわかさんと村上裕一さん)が集まる打ち上げに参加。村上さんの寝坊というハプニングもあり、空いた席に前出の某誌編集さんも加わる流れに。
遅れて来た村上さんがノリノリで、「ラブプラスをプレイしている自分」を自己肯定できないさやわかさんを散々いじりたおして追い詰めるという切れ味の鋭さを見せていました。
ここで村上さんがマブラヴオルタの論者であると聞き、オルタ信者であるはしさんと会えるように取り次ぐ約束をする。
……と、こんな風にして上京中の予定がライブ的に埋まっていきます。
三日目/徹夜する日
izumino | ジャンプ買ってきた |
世間では月曜日です。
海燕さん経由でネットで知り合った、第21回ファンタジア大賞受賞者である入江君人さんと、オフ会。昼食はインドカレー。
主に、宿泊先である結城さんち(入江さんの地元と近いらしい)に積んである少年ジャンプのバックナンバーを開きながら、三人でごろごろジャンプ漫画語りをするというカジュアルなオフ会でした。
ちょうど『めだかボックス』の連載第一話からのバックナンバーが揃っていて、その中には『ぬらりひょんの孫』の過去編から羽衣狐様復活までがキッチリ収録されていたので、めだかボックスとぬら孫の話ばかりしていました。
あとは、「読者は作者の奴隷になるべきじゃないし、作者も読者の奴隷というわけではない。作者は作品の奴隷になるべきだ」「作者もまた作品を読解する人間の一人でしかないのだから、自分の作品のことを理解しようと思いつつ創作する作家の方が健全だし、自分の作品をまったく理解できない作家も存在する。作者よりも作品を優位に考えなければならないのはそのため」「編集者の仕事は、その作品が誰に見られているか、ということを作者に意識させること」といった一般論を述べたりもしていました。
夕方頃、予定のある入江さんと別れてから、開館前の米澤嘉博記念図書館へ。集合時間と集合場所を勘違いしつつ、遅刻。すみません。
準備中の館内を1Fだけ見せていただいてから、野田謙介さんと意見交換。
やっぱり? というか、BDの世界で視線誘導論はそれほど吟味されていない模様。これなら研究の余地は当然あるな、と確認できたのが収穫といえば収穫だったでしょうか。
渋谷に移動して、ブレインズへ。吉田アミさんの講座はすでに懇親会に入っていて、みんなお酒飲んでました。
アミさんがまだまだこれから飲みたい! と主張していたので、終電を諦めて付き合うことに。
四日目/『ハーメルンのバイオリン弾き』一気読み開始
izumino | アミさんと麻草さんとカラオケ中 | |
izumino | カラオケ終わり | |
izumino | 朝帰り。寝ます |
んでいつの間にか、中野のカラオケ屋でアミさん・麻草さんの三人で朝カラしてる展開でした。
「意外とイズミノくんカラオケうまいんだねー」「カラオケで熱唱するようなキャラだとは思ってなかったのにね」などとアミさんから言われてましたが。
宿泊先に戻ってからは、さすがに12時間ほど眠る。
それから特に予定が無かったので、実は未読だった『ハーメルンのバイオリン弾き』(全31巻)を少しずつ読むようにしました。
五日目/展覧会とショップ巡り
世間では水曜日の、9月30日です。
東京駅でポスターを見かけて気になっていた、「古代ローマ帝国の遺産」展を見に上野の国立美術館へ。
まぁ色々な実物を見れたのは良かったんですが、展覧会としては普通だったかな?
これなら古代カルタゴとローマ展の方が面白そうでしたが、そちらは10月3日からなので無理でした。
その後、吉祥寺のバサラブックス、中野のタコシェを仕事がてら麻草さんとハシゴ。
麻草さんと別れた後、帰り路線の秋葉原で一旦降りて、とらのあなで同人誌を買い、COMIC ZIN秋葉原店に初訪問。
『漫画をめくる冒険』は、どのショップさんでも下巻が品薄状態なのですが、店頭で探すならCOMIC ZINさんが今一番揃ってるんじゃないかと思います。
六日目/『ハーメルンのバイオリン弾き』全巻読破続行中
10月になりました。
ハーメルンは残り10巻までいきましたが、どうもモヤモヤした感触があって、話の内容に乗り切れず。
これ、以前『聖闘士星矢 冥王神話』で感じていた「各話ごとにブランク(白紙)を挟まないことによる読後感の違い」が現れた結果なんだろうな……、と途中から気付きました。
単行本は、なんでこんなに雑誌で読んだ時の記憶と違ってくるんだろうか? - ピアノ・ファイア
そうか! この単行本って、各話の「ヒキ」のページが、次の話の1ページ目とシームレスに繋がった形になってるから、毎回の「ヒキ」が弱くなってしまってるんだ
ハーメルンは手代木星矢以上に、「ヒキのページにおける盛り上げ感」が強い漫画だったので、そのすぐ横に「次回の1ページ目」が続いていると、作品への感情移入がしづらくなるんですよね(それで感情移入が妨げられる理由は、色々考えられる所ではありますが。目下分析中です)。
ここから先は「強いヒキで終わった話があったら、一度単行本をパタンと閉じて、心を落ち着けてからまた本を開く」というルールを作って読むようにしました。
この工夫は効を奏したように思います。
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実際、通して読んでいて一番感動できたのは、その読み方を始めてすぐの29巻(オカリナがピンで表紙の巻)だったというのもあるのですが。
……という読書体験もあって、個人的にはサイザー本人よりもオカリナとの関係の方が印象に残る作品になった感じです。
- 結城さんちで作ったトマトソースのパスタ
七日目/新宿オフから夜行バス
実は『ハーメルンのバイオリン弾き』は35〜37巻の三冊を残して、在京中に読み切れず。
最後まで読まなかったのは、前述した「ブランク無し問題」の理由以上に「時間を空けて気分を醸成した方がいい」と判断したからです。
あ、この「醸成」の感覚がどこから来るのか、というのも今後の研究課題ですね。
というわけで、3巻ぶんだけ結城さんから借り出ししてお別れし、東京最後のオフ会へ出発。村上裕一さん・はしさんとのオフ会です。
izumino | よし、今から新宿に出て、その後で夜行バスです。さらば東京 | |
izumino | めだかボックス1巻購入 | |
izumino | 待ち合わせ時間までベルクでまったり | |
fka_shanghai | あれ? めだか1巻出てるのか。見当たらなかった気が。 | |
izumino | @fka_shanghai 駅前の本屋には二冊しか置いてなくて涙したんですが、専門店はともかく一般書店は入荷数を絞っている可能性が高そうです |
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- どーも集英社側に売る気が無さそうな1巻。表紙デザインもなんか適当だ
オフ会に用意した時間は、バスの発車時刻まで4時間くらいあったんですが、すぐに「まだ喋りたりないのにもう時間切れですか」って感じになったのでまたやりたい所ですね。というか二人とも関西に遊びに来るべきですね。
はしさんが『SWAN SONG』の田野村の話をしていて、それは劇場版ウテナの暁生みたいなもんだね、と言ったらウテナ観てなかったと言うので、観るように薦めておきました。
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翌朝、京都の三条で降りて、敷居邸へ。自分の水筒を置き忘れていたので、その回収がてらに……。
リモートデスクトップ接続の実験をしたり、パスタ料理したり、ハーメルンを最後まで読んだり、ヴァンプリの対戦をしたり、本棚の組み立てを手伝ったりしてから、終電で自宅に帰りました。