読書日記:アントニオ・R・ダマシオ『無意識の脳 自己意識の脳』その3
第二章からとんで第五章。
第五章 隠された身体と脳
p203
さて今度は、対象が実際には存在せず、記憶にとどめられているような場合について考えてみよう。私の理論に従えば、その対象の記憶は傾性的な形で蓄えられている。傾性は、イメージのように活発で明瞭なものではなく、いわば休眠状態で内在的な記録である。かつて実際に知覚されたことのある対象に対するそうした傾性的記憶には、その対象の色、形、音といった感覚的側面の記録だけでなく、その感覚的信号を得るために必然的に伴われた運動調節の記録も含まれているし、さらに、その対象に対する必然的な情動反応の記録も含まれている。その結果、われわれがある対象を想起し、それにより、傾性に内在する情報を明示的なものにすると、われわれは感覚的なデータばかりでなく、それに伴う運動や情動のデータも回復する。ある対象を思い起こすと、われわれは本物の対象の感覚的な特徴だけでなく、その対象に対する有機体の過去の反応も呼び起こすのだ。
本物の対象と記憶されている対象とのちがいがどういうものかは次章で明らかになるが、(以下略)
「目の前で起こっている本物の対象」と「そうでない対象」の違い。
フィクションやバーチャルリアリティに人間が接したときに、どのような反応が人間の中に起こるのか、ということを考える上での重要な示唆。
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