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読書

 「孤独の克服」は絶版本で、わざわざ古本を通販で取り寄せて読んだんですが、なんでそこまでして読もうとしたのかというと、正高信男『天才はなぜ生まれるか』という本の中に描かれていた、グラハム・ベル(電話の発明者です)の人物像に興味を持っていたからです。


 『天才はなぜ生まれるか』という本は、その内容自体は面白いんですけど、筆者の主張における物証や論拠には「かなり」乏しい本だ……という印象があって。*1
 んでこれがまた、一次資料としての伝記にあたってみるとですね、ホントにデタラメに書いてることが判明しましてね、うわぁって感じ。


 正高氏はグラハム・ベルを「付き合いべたなベル」と称して、コミュニケーション障害を負った人として扱っている上、その「他人に対する思いやりの無さ」故に、夫人にも愛想を尽かされていたのは間違いあるまい……、みたいな調子で断言してるんですが、伝記を読む限りは、そういう側面は見えてこないわけですね。どう好意的に見ても、正高氏の独自解釈による「つくり話」が先走り過ぎている感じです(ベルの孤独癖が強かったのは確かみたいですが、社交能力自体は申し分無く優れていて、夫婦仲も並以上に良かったものと思われます)。
 これってヘタすると、遺族に名誉毀損で怒られちゃうような話では? と心配になったりも。『天才は〜』の読者が事実関係を確かめようにも、肝心の一次資料が絶版で入手困難、というのもまたアレです。


 まぁ視点を変えれば、安倍晴明が美青年の超能力者にされたり、佐々木小次郎が聾唖の剣客にされちゃったり、みたいな「歴史上のキャラが育っていく過程」を垣間見ているような感じ*2ではあるのですが……、それとこれとは話が別ですよね。

天才はなぜ生まれるか天才はなぜ生まれるか
正高 信男

筑摩書房 2004-04-08
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*1:新書サイズの薄い本なので、論拠を並べるよりも主張内容に文章量を割こうとする方針自体は否定しないのですが

*2:そういう意味では、正高氏の創作した「付き合いべたなベル」は、非常に魅力的なアーキタイプを備えた「キャラ」ではある