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赤松健『魔法先生ネギま!』9巻

 マガジンで休載している代わりに新刊です。
 8巻〜9巻の流れは<ネギま!編>で指摘した「バトルの直後に日常エピソードを挟んで事後処理を行う手法*1」が具体的に行われているという点がまず見所であって、最初、2話分のページをかけて

  1. バトルパートで投げ出していた疑問点を解消する(ネカネの脚の後遺症など)
  2. バトルパートで加わった新キャラ(千鶴、夏美、小太郎)の関係性を主人公達の日常生活に取り込む
  3. 次の大イベントへ向けた解説と事前準備(……を、↑のキャラ達にやらせる)
  4. 新キャラ(五月)の追加と脇役(ザジ、超、ハカセ)の顔見せ
  5. バトルパートを経て性質が変化した、メインヒロイン(明日菜)との関係性や絆の強化を描写
  6. その明日菜によって、主人公をバトルのショックから日常生活に立ち直らせる(主人公の精神的成長)

……といったことが、(猛スピードながらも)きっちり片付けられているわけです。まぁ、要点は二番目と五番目ですね。
 そして「新キャラの関係性を日常生活に取り込」んだ結果、どういうことが起こるかというと──レギュラーキャラ同士の人間関係が化学変化をきたし、「学園コメディ」の性質そのものが以前のそれ(単行本では7巻あたりのコメディ)とは別物に変質するということです。


 そのお陰で、1話あたりに15〜20人(! ちなみに7巻の時点では10人強がせいぜいだった)のキャラクターが各々の個性を活かした役を与えられて登場するという途轍もないコント形式がこの巻になって初めて可能になるわけですが、いやぁ、「猫耳スクール水着!!!」「やりすぎたか・・・・」とか「素直にノーパン喫茶で」「はやい!?」の流れとか何度読んでも笑えますよ。アホすぎ。
 あとやはり、同じ話の中で「司会役」が3人も登場してるというのに全く余剰人員になってないのが凄い。


 3話目の幽霊の回も、作者のお気に入りというだけあってテンション高すぎです(勢いがありすぎて、設定的には謎を放置しまくりなんですが。単行本でもフォローされてねー)。
 そして軽いラブコメを挟んだ後、巻末の1話分を使ってバトルパート(当然、直前までに前振りしてきた設定を活かした展開になっている)へ雪崩れ込んで、そのまま次巻へヒキ。うーん(猛スピードなんだけど)無駄が無い。
 そのアクション自体も、動線やカメラの使い方が以前のアクション描写よりも上達していて技巧的な見所が多いです。研究者は要注目ですね。*2


 しかし気の長い話ではありますが、本当の意味で「ネギま」が面白くなるのはこの8巻〜9巻へ流れ込んだ瞬間だと評価しています。それまでは「普通に面白い」止まりで、「無茶苦茶面白い」までの評価は下してなかったですからね、個人的には(ハードル高めの評価ですが)。
 更に言えば、現在連載中の10巻相当の展開は9巻を上回って面白いですよ。多分、まだまだ面白くなれる筈。だからこの漫画は、表現の天井がかなり高いんです。こういった漫画としての「ワクのデカさ」は、最近の少年漫画ではそうそう見られない代物だと思います。


魔法先生ネギま! (9)
赤松 健
講談社 2005-02-17


 ところで、表紙のさっちゃんは田沼雄一郎ナヲコが描けば普通に美少女キャラ扱いされるデザインなんではないかと感じました。結局、平均以下なルックスは存在しないクラスなのか。

*1:赤松健論では便宜上「ねぎま串方式」と呼んでいる

*2:赤松漫画は「貼り込み」と呼ばれる、先に背景画を描いてその上に人物画の切り抜きを乗せて貼るという独特な技法で制作されているのですが、その作業の手順を逆手に取った「背景だけで人物のアクションを描写する」というアイディアが生まれているのが興味深い。ここでは背景とアクション系のエフェクトを総括しているアシMAX氏の仕事が主役と言えるかも