HOME : リクィド・ファイア
 移行後のはてなブログ:izumino’s note

河合隼雄『ケルト巡り』(ISBN:4140808446)

 実際にイギリス・アイルランドを旅しながら、ケルトと日本の精神文化の類似性を指摘しつつ現代人がどう(非キリスト教的な)神秘思想と向き合っていくべきかという読み物。
 イギリスといえばストーンヘンジやら良く解らない遺跡の多い土地でもあり、そこには東洋思想やオセアニアの原始宗教やネイティヴ・アメリカンにひけを取らない高度な精神文化が……と思いきや、文字を持たないケルト民族は自分たちの宗教様式や儀式の内容を殆ど喪失しているのだった。いや、ホントに跡形も残ってない感じなので、こりゃシャーマンファイトにドルイドが出るのは無理っぽいですな。だから、ニュー・ドルイドと自称する現代のドルイド達は、想像と創作で儀式を発展させてるんだそうな。


 ただ、童話や伝説の類は口伝で多く残っており、「浦島太郎」や「天人女房」にそっくりな話があって確かに興味深い。特に、ハッピーエンドの物語が少ないのは反・グリム童話的と言っていいかもしれない。*1
 グリム兄弟が編纂した童話は、本来バッドエンドだったお話が「めでたしめでたし」のハッピーエンドに改編されている、というのは『本当は怖いグリム童話』のブームで有名になりましたね。
 これはキリスト教文化の影響を強く受けたからだと河合隼雄は指摘しています。

 しかしよく考えると、実際の人生には納得できないことや悲しいこと、苦しいことの方が、ハッピーなことより余程多い。それなのに、キリスト教文明は、そういった苦しみや悲しみを越えてハッピーを勝ち取ることができるのだと、おはなしを通じて言おうとした。

 その上、現代科学が発達することによって「苦しみや悲しみ」は「克服」可能なものになっていくし、大衆物語はハッピーエンドが増えていくことになると。
 そう考えてみると、今世に溢れている、トラウマや弱点を「克服」する物語が、いかに現代科学的/キリスト教的な考え方に影響されているか……という気もしますね。*2

*1:本書では指摘されてないが、中国の伝説にしても理不尽で後味の悪いオチが少なくない。世界的に見れば、おそらくグリム童話の方が特殊なのだろうと思う

*2:仏教の因果論も、基本的には「原因を取り除けば問題は克服できる」という考え方をしているので、日本ではそちらの影響も強いかもしれない