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今野緒雪『夢の宮 〜竜のみた夢〜』(ISBN:4086118297)

 Amazonマリみてを何冊買ってもおすすめられないのに、これを一冊買うと他のシリーズをおすすめられる。やっぱり購買層は全然被ってないんでしょうね。「ミッキー」や「クララ」はマリみてと被ってるんだけどな。


 面白かったです。というかホントに泣ける話だとは思いませんでした*1
 やっぱり今野さんは良く計算してから小説を書くタイプではないかと。「お告げ」や「正夢」による人物指定がパズリックで、劇中挿話への象徴的置換や、気の利いた叙述トリックも用意されている。どれもフェアな消去法で処理できて、「あー、そうならざるを得ないよね」と納得できるオチになっていますし、結末までの運びも巧み。一部ステレオタイプではあるけど、初単行本がこれってのは凄いなあと感心しました。


 まぁ、このシリーズが何冊も出てることを考えると、さすがに全部読む気にはならないかな。でも例えばミステリ読者で、マリみての構成力を高く評価してる人も少なからず居るみたいですけど、そういう人はこの一冊だけでも読んでみるといいんじゃないでしょうか、と薦めたくはなります。
 ところで、「夢の宮」もしっかり「マリみて」してますね。「萌え」が無いだけで。箱庭的ブルジョワ世界が舞台で、一人の人間の成長物語になっていて、周囲の人達がその成長を必死に見守り、支える話……という。「中盤でトリックが解っちゃうけど最後までつい読んでしまう叙述トリック」がこの頃から健在しているのも微笑ましい所。
 あとどの作品でも言えますが、今野さんはクライマックスで主人公を移動させるシーンがなぜか巧い。「今居る地点」から「解決」への物理的移動。少年漫画だったら必殺技を出して、ミステリなら名探偵が「解った」と叫ぶシーンに相当する感じ。それが「移動」するだけで済んでしまうことへの気持ちの良さ。


 そしてあとがき。
 今野さんが少女小説を読み始めたのは成人してからなんだそうです。あー。だからマリみての中の「少女小説らしさ」は単なる「好きだから」のオマージュじゃなくて、ジャンルに対して俯瞰的なオマージュ*2になってしまうのか。
 そういう「成人後の視点」は「少女小説を読む男性の視点」と共通している箇所も多分あって、だからマリみては男性オタクに受け入れられやすかったんじゃないか、という気もします。

*1:まぁ、人が頻繁に死んじゃうお話ではありますが

*2:要するに同人的・データベース的という意味だけど