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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

今野緒雪『夢の宮 〜薔薇の名の王〜』

izumino2004-10-01

 今野緒雪の初期シリーズ作品。
 古代中国風の異世界を舞台にした架空の歴史小説で、基本的にキャラ入れ替え制のオムニバス形式になっているシリーズです。これは通算で6冊目の作品(ぼくはまだ1冊目しか読んでない)。
 ファンタジー的な要素は少なくて、超常的な現象といえば「巫女の神託」というのが的中率100%の予言として機能していたり、登場人物がしょっちゅう正夢を見る程度、かな。この「巫女の神託」というガジェットが面白くて、その「絶対に外れない予言」を破らない範囲でどうオチをどんでん返しするか、というミステリ的な楽しみがあります。今野さんのパズル好きな部分が窺える所ですな。


 で、この巻なんですが登場人物の月季がかわいいんですよ。中性的で。これはひょっとしてBLなのか? 違うのか? と結構戸惑う構成になっていますが、結末は気にせず「これは男でも女でもどっちでもいいや!」と受け取るのが正しい愛し方でありましょう。*1
 これは9冊目の『夢の宮 〜十六夜薔薇の残香〜』に続く話みたい。そっちも今度読も。
 あと、この頃から観葉植物が好きなんですね今野さん。ここに出てくる庚申薔薇ってロサ・キネンシスのことだし。


 「夢の宮」の頃の作者は、頭の中に物語が湯水のように湧き出ている状態だったのだろう……というのがあとがきから強く伝わってきます。一度書き上げた小説をまるまる書き直してみたりだとか、そういう大量生産を繰り返して今ある文章力の地力を上げてきたんでしょうねえ。*2作家研究的にも興味深い作品だと思います。1冊目である『夢の宮 〜竜のみた夢〜』の次に読む本としてはオススメしていいでしょうね。

*1:そんな読み方するのはぼくだけかもしれないが

*2:この時点だと、倒置的な表現を多用しすぎていたり、三人称記述と一人称記述が紛らわしかったりと荒い部分も多い。それでも巧い方だと思うけど

今野緒雪『マリア様がみてる 特別でないただの一日』

 んでこっちはマリみての新刊。
 ドタバタ学園祭編。文芸路線よりもジュニア路線なノリでした。*1
 第1巻の学園祭と随分印象が違うのは、祐巳が「巻き込まれる側」じゃなくて「巻き込む側」に回ったからでしょう。うーんなんか『クララ白書II』(氷室冴子)トリビュート? という気もしてしまった。でもクララがドタバタながらラストがしんみる泣けるのに対して、この巻のラストは全力で「続刊に続く!」なんだよな。や、ここまで長期シリーズになってしまうと、一巻単位で完結した作品にしてほしいというのは贅沢な要求かもしれません。「涼風さつさつ」辺りまでは一巻で完結する話になっていたと思うんですけどね。
 キャラクターも飽和状態になってる感があって、全員をイベントに絡ませるのに精一杯という感じ。作者の「このキャラはこの前出したから我慢してもらって、このキャラはご無沙汰だから出してあげないと……」みたいな声が聞こえてきそうなくらい。パズリックなキャラ間構成と、オールスターキャスト的なごちゃごちゃ感は楽しいですけど、どの人物もイベントも「さわり」の部分だけで踏み込みがなされていないのが残念でした。読者が裏読み、行間読みしないといけない箇所が多いんですよ。
 瞳子がクローズアップされてるのはまぁ良かったかな。これは勘違いしてるファンが多い気がするんですけど、瞳子祐巳の関係ってファンが作り上げて盛り上がっている部分が多くて、原作じゃ殆ど描かれてないわけ。今回でようやっと妹候補として見れる説明が付いた程度じゃないかと思います。逆にいうと、(今回キャラとして後退させられ気味の)可南子と同じスタート地点に着いた、んじゃないかな。
 それと関連して、今野さんは本気で「女同士の三角関係ラブコメ」をやるつもりなのかなあと認識を改めてみたり。「女の子同士」っていうジャンルを一代で一気に押し上げてしまったのが「マリみて」なわけですけど、その本家本元がどこまで踏み込んでいくのか、ということ自体が一種の関心事になりつつあります。
 元々マリみてって「女の子同士っていうのもいいもんだよ」と啓蒙する小説だったと思うんですけど、今やオタク(一般読者はどうなのか……知らん)は男女共にすっかり百合に慣れてしまってますからね。


 それにしても相変わらず祐巳さまは自分を客観的に見れてない人ですね。薔薇さま方の呼称を棚に上げて花寺を云々してる辺りとか。そろそろ、その無自覚さにツッコみを入れてくれるキャラ(蔦子さんあたり?)が横に居ないとヤバいんじゃないかな、語り手キャラとしては。

*1:解ってることなんだけど、毎回マリみてには文芸路線を期待して読んじゃうんだよな