宮崎駿監督アニメ映画『風立ちぬ』感想
東京→仙台という旅程から関西空港までの空路で関西に帰ってきた23日に、『風立ちぬ』観てきました。
旅の疲れで流石に眠くて、そのせいで集中して観れてなかったかもしれないんですが、劇場出た後の余韻のいい作品でした。
抑揚の少ない主演・庵野秀明の素人喋りと、作品全体の抑揚のなさがリズムとしてマッチしていて、その合わさったリズムが作品の印象として記憶に残りやすい、という現象があって面白い。
抑揚がないといえば、戦争映画にせず、戦争シーンを排除してあるのは意図的だったとも聞きます。
ところで『コクリコ坂から』(企画脚本が宮崎駿)において、同期の同僚大好き男が妙にイチャイチャしてくるのはどのスタッフの趣味かと思ったら、駿さんの意向だったということでいいんですか……? と思うくらいに『風立ちぬ』も同期の同僚大好き男が主人公のこと好きすぎる。
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アニメーターとしての宮崎駿にとって「同期の同僚」というとパッと思い付く人物がいないこともあって、あのホモソーシャル関係は彼にとってのファンタジーなのかもとも。
また、上映前の予告に高畑勲監督の『かぐや姫の物語』の映像があり、そちらへの期待も高まりました。
宮崎駿が『風立ちぬ』を通して「戦争しようが自然を壊そうが機械が大好き」という「ジブリらしさの宮崎駿的側面」をぶっちゃけている一方で、『かぐや姫の物語』は「かぐや姫の罪と罰」をキャッチコピーにしており、テーマの呼応を感じることもできるでしょう。
当初の予定と違って、順番としては『かぐや姫』の公開が後出しになりましたが、この両監督の「終わらないバトル」的にはちょうどいい順番かもしれません。
岡田斗司夫さんは『風立ちぬ』の主人公の描写から「美しいものにしか関心がない非人間性」を読み取ったそうです。
実際、あの主人公は自分の生き方に関して何も悪ぶらないし、葛藤もないように映る。そこに「演技のこもっていない平坦な庵野秀明の声」がまたマッチしている。
それは「私もそういう人間なんです」という宮崎駿の自己表明として見るか、あるいはポニョに対して「この子は恐ろしい子ですよお」と言っていたように思い入れつつもキャラクターを他者として怖れるような気持ちが本人にはあると見るか、で作家論的な評価も変わりそうですね。
ちなみに今調べてみたら、今作のオマージュ対象であろう堀辰雄の『風立ちぬ』『菜穂子』がKindle版で無料になってました。とりあえずダウンロードしておきました。
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