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NHK Eテレ「ハリウッド白熱教室」で解説された音響効果

http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/hollywood/index.html

 講師は南カリフォルニア大学の名物教授で、「ハリウッドの生き字引き」と呼ばれるドリュー・キャスパー。
 この最終回のテーマは「音響効果」で、ゆうべ録画を興味深く見ていました。


 フランシスコ・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』以降言われるようになった「サウンドデザイン」という概念の成り立ちや、映画音楽家ヘンリー・マンシーニの仕事の紹介が印象に残りました。


 特にマンシーニの映画音楽に関しては、『ティファニーで朝食』や『いつも2人で』において、映像(役者や車などの動き)のタイミングと同期させた曲作りを紹介しています。


 「これは音楽を先に作ってから撮影したのでは?」と思ったドリューは『いつも2人で』のスタンリー・ドーネン監督に直接尋ねてみたところ、「あれはマンシーニの手柄だ」という答えが帰ってきたそうです。
 実は映像の後から作曲している、と。


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マンシーニの手柄」とは何なのか

 ここでのポイントは、初期の映画において「映像を編集した後から作曲し、映像に合わせて演奏・録音する」という手法は当たり前に行われていたということです。


 しかしドリューや、この講義の聴講生は「音楽を先に作ってから撮影したのでは?」と疑い、「後から作曲した」という事実の方に驚くという流れになっています。


 劇伴というものは、大別すると、音楽を先に作り溜めておく手法を「溜め録り」、後から映像に合わせて作曲する手法を「フィルムスコアリング」と呼びますが……、つまりフィルムスコアリングで作曲すること自体は別段、マンシーニに特筆することではないわけです。


 ということは、ドリューらが想定していた「フィルムスコアリング」は、さらに二種類に分けられると考えたらいいかもしれません。


 ひとつは映像の情感や雰囲気に合わせて作曲・演奏・録音を行うタイプのもの。
 このタイプの場合、音楽が映像と同期するポイントはカッティングやシーンが変わるタイミングなどに留まり、映画音楽としては一般的なイメージを与えるものでしょう。


 もうひとつは、映像の中の動きに合わせるための同期ポイントが多いタイプのもの。
 これはディズニーアニメに典型的な劇伴の作り方としてみなされていたようで、「ミッキーマウシング」と呼ばれるようです。


 ただ映画音楽として、ミッキーマウシングはあまりいい意味で捉えられていなかったそう。
 ちょっと検索するとこんな記事も出てきます。

カートゥーン音楽を評するときに、よく皮肉まじりに「ミッキーマウシング」ということばが使われる。たとえば、「Film Music 2nd ed. ( by R. M. Prendergast)」を見てみよう。

ミッキーマウシング:明らかにカートゥーン漫画の音楽を皮肉ったことばで、映像のひとつひとつの動作が音楽に「捕まっている」状態を指している。 (p. 80)

音楽と映像を形式上どうやってうまくつなげるか、という問題は、音楽がスクリーン上の動作を「サルマネ」する(ミッキーマウシングする)ことで解決できるわけではない。ミッキーマウシングはカートゥーンでは期待されているといってもいいくらいだが、ドラマティックな映画では、うまく扱わないと場違いでつまらないものになってしまう。 (p. 228)


・・・とまあ、カートゥーン音楽に1章を割いている本の記述からしてこの程度なのだが、じっさいのところ、多くのサントラファンは、カートゥーン音楽を、「なんだかいちいち動作に音がつくクドい音楽」てなイメージで片づけているのではないだろうか。

http://homepage3.nifty.com/elevator/cartoon/mickeymousing.html


 つまりこういう認識に立つと、「いちいち動作に音がつくクドい音楽」にもならず、「シーンの情感に合わせて流れるBGM」にもなっていなかったマンシーニの音楽は、「先に楽曲の構成をしてから、撮影する段階で動きを合わせた」という手法をまず疑わせるものだったのでしょう。


 要するに、ただ動きに合わせて音をつけてしまうと作曲のセオリーを無視することになり、わざとらしい音楽になるはずが、マンシーニ「ちゃんと動きに合わせた上で、わざとらしさを感じさせないくらいに自然な音楽としても成り立たせている」曲を与えた。
 その才能をして「マンシーニの手柄」とされているのだ……と、推測していいでしょう。

アニメ音楽とフィルムスコアリング

 余談ですが、じゃあミッキーマウシングは映画音楽としてダメなのか、というとそうでもなく、ちゃんと再評価する流れがあったそうですから、念のため加筆しておきます。


 音楽家の吉田隆一さんに教えていただいたことですが。



 作曲のセオリーから外れた、異質なタイミングもまた一種の「音楽」の要素になりうる、ということなんでしょう。


 また、海外の映画やカトゥーンに限らず、日本のアニメにもフィルムスコアリングの歴史はあります。

 元来アニメーションというのは、絵が出来てから、後で音楽を入れるものである。ミッキーマウスが歩くのに合わせ、あとから足音を絵の動きに合わせて入れたことから、映像に音楽をシンクロさせるのを「ミッキーマウシング」というのだそうだ。
 古典的名作「白雪姫」や「ピノキオ」をはじめ、ディズニーではないが、「トムとジェリー」や日本では「ジャングル大帝」などもそういう作り方である。 
 これらを見ていると、転んだり叩いたりするのに合わせて曲中にアクセントを入れたり、動作に合わせて音楽のテンポを変えたりと、かなり芸が細かい。作曲家の冨田勲氏は、「ジャングル大帝」の音楽をやっていた時、毎週音のない映像を見てはそれに合わせて作曲し、動きをあわせるために変拍子を挿入して微調整したり、フィルムにパンチで穴をあけ、それをキュー(入りの合図)代わりにしたりして、手作業で映像に合わせていたそうである。
 この「ジャングル大帝」(虫プロ制作の旧シリーズ)もDVDボックスを持っているのだが、時代を感じさせる部分も多々あるが、「ライオンキング」がまるまるパクッたという雄大なオープニングなど何回見ても感動する。

http://blog.livedoor.jp/a_ohyama/archives/50061723.html

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 『ジャングル大帝』のミッキーマウシングは古いケースですが、その一方で「シーンの雰囲気や情感に合わせて曲を作る」タイプのアニメ音楽は最近でも度々試されているようです。

各話に合わせて制作(フィルムスコアリング)されたハイクオリティなBGMは作品の世界と完全にリンク。「CANAAN」の世界そのものを感じ取ることが出来る渾身の仕上がりとなっています!

http://www.minp-matome.jp/news/detail/5811

◆完成した映像にあわせ、BGMを作曲する、
テレビアニメの常識を超えた、これが"あやかしサウンドシステム"だ!
おまもりひまり』では放送の半年前に映像を完成させ、作曲家がそれを見て各シーンに合ったBGMを作曲するという方法が取られた。

http://kadokawa-anime.jp/omahima/introduction/

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 これらのように、「いちいち動きと音を合わせた」(一種アバンギャルド)な音楽や、「シーンの雰囲気に合わせた」一般的な音楽だけでなく、マンシーニのように「後から動きに合わせているのにまるで予め作曲していたように感じる」音楽、というのも紐解いて探せば存在するのかもしれません。


 アニメの映像と音楽の完全なシンクロというと、世代的には『新世紀エヴァンゲリオン』の第九話「瞬間、心、重ねて」を思い出します。
 あれは楽曲(「Both Of You, Dance Like You Want To Win!」)が先で、絵コンテ(樋口真嗣)が後という順番でした。


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 最近のアニメの流行としては、ライブシーン、ダンスシーン、楽器演奏シーンなど、まさに「音楽が先で、映像を音に合わせる」表現が飽和しているくらいの印象があります。


 ただしそれらは「劇中で実際に演奏されている音楽」に合わせた映像であって、エヴァ九話のように「純粋なBGM」に合わせたアクションとは少し傾向が違うものでしょう。
(一応、エヴァのBGMもシンジとアスカが訓練中に聴いていた音楽が流れている設定のはずなので、純粋なBGMというよりやはり「劇中曲」に近いのでしょうが。)


 個人的に、映像と音響が調和した映像というのはすごく好みですから、どんな順番の作曲であれ、「映像の動きに合った音楽」というのはもっと見てみたいと感じますね。