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イレギュラーとして生まれた鬼子・王子の運命/近藤直也『「鬼子」論序説』

「鬼子」論序説―その民俗文化史的考察「鬼子」論序説―その民俗文化史的考察
近藤 直也

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 日本における「鬼子」に関する風習や伝承を調査した民俗学の書で、著者は「ハレ・ケ」概念の研究を主に行っている先生だそうです。


 先日「東西の魔女」についての本を読んだこともあって、「人間離れしたマイノリティ」が日本でどう語られ、受容されてきたのか? という関心から手にとってみました。


 日本でいう「鬼子」は、異界と関わりのある存在として恐れられます。
 西洋にも鬼子を連想させるものに「チェンジリング(取り替え子)」の言い伝えがありますが、社会におけるマイノリティや禁忌(タブー)を象徴する「人間」だという点において、鬼子や取り替え子は魔女に通じるものがあるでしょう。


 日本で生まれた「魔女っ子」や「魔法少女」というのは、西洋由来の魔女(=社会的なマイノリティ)を東洋的な宗教観で読み替えたものだ、と前掲の『魔法と猫と魔女の秘密』は結論していました。


魔法と猫と魔女の秘密―魔女の宅急便にのせて魔法と猫と魔女の秘密―魔女の宅急便にのせて
正木 晃

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 だとすると、日本人が伝えてきた「鬼子」伝承は、日本のフィクションを考察する上で良い補助線になるのでは……、という興味が湧いて、参考に読んでみたという次第です。


 実際に「鬼子」についての調査を眺めてみると、日本での「鬼子」は、英雄的な「王子」と表裏一体の存在だという結論に収束していきます。
 酒呑童子茨木童子から頼光四天王に金太郎、武蔵坊弁慶、現代に至ってはゲゲゲの鬼太郎など。
 イレギュラーとして生まれたゆえに親=国家(公)の敵となるか、イレギュラーゆえに英雄となるかで運命は別れますが、その生まれの性質は共通点が多く、明確に区別できるものではない……。
 いずれにせよ「公」にとって、「イレギュラー」に生まれた鬼子は両義的な存在であったといいます。


 しかし、本来はそのように「善悪が曖昧」であった存在も、時代が進むごとに「曖昧さ」が薄れていくようです。
 政治的に都合の悪いものを、一方的に「白黒つけようとする」のは、儒教思想による政治支配の弊害だろうとも論じていますが……。
 現代日本のフィクションを観察すると、「善悪の曖昧なイレギュラー」=鬼子という存在は、確かに受け継がれているような気もしますね。特にオタクは、邪悪とされる力で戦うヒーローが好きなものですし。