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異世界転生ものの書きやすさと、創作世界の宇宙観

 小説投稿サイト、「小説家になろう」に多い異世界転生ものは、とにかく書きやすさが異常に高いのだろうな、と思った理由を考えていました。


 VIP系SSの世界も似たようなものですが、多数を占めるスタイルというのは「それを書きたいから」よりも「それが書きやすいから」が創作動機の大半を占めていると思うので。
 だから社会反映論的な「書き手の欲望」をそこに読み取るよりも、「なぜそんなに書きやすいのか」を考えた方がジャンル分析としては無難なんですね。


 特に、ネットの異世界転生もの小説の前身とも言える、「オリジナル主人公もの二次小説」の手法が絡んでくると、この「書きやすさ」「書きはじめやすさ」を強く感じます。


 異世界転生ものは、読む側からすると、まるでノベルゲームやRPGのインターフェースに似た読み味があります。
 「主人公の名前入力」からスタートして、「目が覚めたら幼馴染や母親が目の前にいる」「寝ボケた頭に簡単な状況を叩きこんでくれる」へと即座に繋がるイージーさに近い。


 一人称による「転生」の導入のしやすさは格別で、自己紹介も一瞬だし、なにより世界観の説明を、転生装置(神や天使など)に「転生先はどんな世界なの?」と直接質問してしまえるダイレクトさが凄いです。


 それって「人間原理」の宇宙観じゃないかな、と。
 主人公が語り始めることによって、逆算的に世界が作られていくような。


 普通のファンタジー世界や現実世界ならば、「世界をどこから語りだせばいいのか」で創作初心者は迷うことになりますし、そのスタートラインの設定には無限の可能性があって、正解はない。
 人間原理ではない世界には、明確な始まりがないからです。


 なので、90年代頃のファンタジーブームにファンタジー小説を書いていた人たちは、まず「創世神話」を語るところから始める傾向があった気がします。
 今、そんなファンタジー小説の書き方をしたら、逆に「ものすごく王道っぽい」ファンタジーに感じてしまうでしょうね。
 しかしどう考えても、主人公が世界にログインするところから語りはじめた方が、圧倒的に手っ取り早いんでしょう。


 で、この「転生による世界の語りやすさ」に対して、うまくサブキャラのキャラも立ち、世界観(歴史)の描写もうまくいった場合、「主人公の人間原理によって作り出された世界」が、主人公から自律しようとするのが定番のパターンのようです。
 異世界にログインした主人公は、まるでゲームのプレイヤーのように自由に生きようとしますが、「主人公のために用意された世界の人々」の自意識からすれば「そうは問屋が卸さない」って話になるのは必然でもあるんでしょう。


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 橙乃ままれログ・ホライズンは、この創作上の構造をうまく設定に置き換えています。
 そこでは「主人公がログインする以前の歴史」が数百年ぶん、遡行的に無から形成される仕組みになっている。
 これはまさに人間原理の宇宙観そのもので、その「後付けで生まれた歴史=宇宙」が、はたして自律性のある存在なのか? 「無から作られた世界」は「人間」と対等の価値があると言えるのか? というのが裏テーマとして流れているように思います。


 また、目が覚めたら母親や幼馴染が挨拶してくれるタイプの、AVGRPGの導入シーンは確かにイージーなのですが、その「導入しやすさ」と「世界観の作り込み」は相反するものではなく、共存しうるはずです。
 ですから、自身が作りこんだ世界・歴史に親しみやすくするために、「転生プロローグ」を狙って選ぶ作者もいるでしょう。
 転生プロローグは演繹的に語りだす作者に向いていると言えますが、帰納的に語る作者であっても利用しうるのは当然なので、「異世界転生もの=演繹的に創作されたもの」と安易に考えるわけにはいかないですね。


 ……と、転生主人公が転生装置に向かって、「へえ、それはどんな世界観なの?」と、モロに「世界観」という単語を使って質問していた作品をさきほど読んで、のけぞりかえりつつ考えていたことでした。
 これはすごいな、と。
 主人公と神様が「これはどんな世界観なのか?」って会話しているシーンから始められる小説って、いまどきなかなか書けるものではないし、もしそれが「ありふれたジャンル」として広まっていたら、創作初心者は迷わず飛び付くんじゃないか、と思うわけです。