「魔法のような科学」から「科学のような魔法」へ──『チンプイ』と『魔法科高校の劣等生』
充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。
クラークの三法則 - Wikipedia
Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.
Clarke's three laws - Wikipedia, the free encyclopedia
有名なアーサー・C・クラークの法則ですが、それを地で行くようなのが藤子・F・不二雄の『チンプイ』における「科法」でしょう。
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『チンプイ』の「科法」は『ドラえもん』における「ひみつ道具」の変奏ですが、「科学」と名乗ってはいても、「呪文」によって発動したりと、より「魔法のような」、回路のはっきりしない描かれ方をします。
マール星の科学技術は設備も機械もいらないの。キーワードひとつで使えるんだよ。
だから、魔法というより……、科法と呼んでほしいね。
(『チンプイ』第二話「おもちゃもラーメンを食べる」より)
「高度に発達した科学は、魔法と見分けがつかない」という意味では、『ジュエルペット てぃんくる☆』の山本天志監督がイメージしていた「魔法」もそうでしたね。科学の延長なんだけど、はるかに発達しすぎていて、回路ではまるで説明をつけられないという。
「科学のような魔法」が描写される『魔法科高校の劣等生』
一方、「科学的に体系化された魔法」が登場する『魔法科高校の劣等生』も、クラークの法則を引いて語られることが多いですが、実際は逆なんでしょうね。「魔法のような科学」ではなく、「科学のような魔法」。
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作中では「古式魔法」や「超能力」という、本来の意味での「魔術」やオカルト的な現象がもともと存在しています。そして、それらを科学的に分析研究した結果が「現代魔法」、という設定ですから。
「電気の発明」に続くような「魔法の発明」の描写
SF作品としての、『魔法科高校の劣等生』における魔法の設定は、どう紹介するのが適切かなあと考えることがあります。
例えば、『トップをねらえ!』のSF考証の大前提である、「エーテル宇宙論が正しいという仮定で考えられた宇宙」。
あのように、「ひとつのウソ科学の上に成り立つ科学的な世界観」というのは『魔法科高校の劣等生』にも通じる設計思想です。
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近未来というか未来を舞台にしたSF魔法物語(?)とでも言えばいいんですかね。
真っ正面から逃げずにSFと魔法をくっつけようとした設定に確かな読み応えがあります。最近ライトノベルでよく見かける量子力学をベースにした粒子の振る舞いの曖昧さを拡大解釈した魔法設定ではないところが実にいいです。現実に存在するフェルミ粒子(代表的には電子とかですかね)やボーズ粒子(有名どころでは……光子=フォトンとか)と言った素粒子の分類に、全く別の粒子のグループをつけ加える形で魔法を「現実に存在する素粒子の作用に裏付けられる物理現象」として規定しています。
「霊子(プシオン)」と「想子(サイオン)」という仮想粒子がそれにあたります。
魔法科高校の劣等生(1)入学編<上> - いつも感想中
『魔法科高校の劣等生』では、20世紀末から「魔法」の存在が明らかにされ、秘儀であったそれらが科学的な研究対象になり、「魔法技術」が世界の軍事のレベルを書き換える……という歴史が語られるわけですが、ここでいう「魔法技術」は「電気技術」を例にとるとイメージしやすいかもしれません。
19世紀にベルが電話を、エジソンが電灯を実用化する以前から、雷が電気であることは知られていたし、静電気や磁力も利用されていたわけですからね。その原理が分析され、体系化されることで利用範囲が爆発的に広がるという面で、魔法科高校の「魔法」は、現代の「電気」と似てると言えるかもしれません。
「電子」に対する「想子」のように、未知の(もしくは仮説の)粒子の発見がキーになっている点でも似てますね。
違いといえば、魔法科高校の魔法は、人間の才能を必要とする属人的な技能であり、機械に置き換えられない以上、量産できる産業ではない、ということ。
ひっきょう、「魔法師を量産する」という目的へと国家の方針は集約するようになっていて、ときには非人道的な手段すら採られる、という問題がテーマに据えられるのも面白いところです。
そういった「魔法の属人性」を徹底するために、『魔法科高校の劣等生』は「魔力を込めたマジックアイテム」のようなものは意図的に登場させていないのでしょう。
電気技術でいうなら「電気製品」や「電子機器」などの「機械」を作ることはできず、魔法師のデバイスであるCADですら、「基本的には電子機器である」という設定にされているほどです。
そのため、世界のインフラはいまだ電気技術に依存していて、魔法が科学に優越しているのは、軍人や諜報員などの「人材」においてのみだったりします。
だから「現代の魔法遣い」と呼ばれる「魔法師」たちに物語のスポットが当てられますし、彼らはやはり(『チンプイ』のマール星人のような)「科学の利用者」などではなく、飽くまで「魔法を使える魔法使い」なんですよね。