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知られざる魔法少女のルーツ、『奥様は魔女』と『奥さまは魔女』?

 ↑の記事でも触れたとおり、今月上旬は「魔法少女アニメの歴史」に関する長めの原稿を執筆していました。
 その原稿がどこに載るかはまた発表できるようになりしだい報告しますが、今回もまた、その原稿からのこぼれ話です。

ひみつのアッコちゃん』の原作は「奥さまは魔女ブーム」以前から

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 魔法使いサリーまで遡る「魔法少女アニメ」の歴史を調べていてわかるのは、海外ドラマ奥さまは魔女の影響です。
 1966年の日本で吹替版が放送され、大人気を博すのですが、機を見るに敏、と素早く反応したのが横山光輝
 『奥さまは魔女』の放送開始から半年ていどで『魔法使いサリー』の連載を決め、その予告掲載号だけで東映からアニメ化のオファーが来たというから驚きです。


 その『魔法使いサリー』の後番組として白羽の矢が立ったのが、赤塚不二夫が1962年に描いたひみつのアッコちゃんでした。
 『奥さまは魔女』は、アメリカの本放送ですら1964年ですから、それより二年も前に赤塚不二夫は「魔法少女」の漫画を描いていたことになります。
 もちろん、変身の呪文を唱えたり、玩具として売りやすいコンパクトをアイテムにしたり、猫のシッポナをパートナー的な存在して描くアイディアはアニメ化によって生まれたもので、『サリー』の存在ありきのアニメ版『アッコちゃん』なのですが。

ひみつのアッコちゃん』は『奥様は魔女』にインスパイアされて作られた?

 ところで、原稿の資料として読んでみた『日本(ジャパニーズ)ヒーローは世界を制す』によると、こんな話が載っています。

大下英治『日本(ジャパニーズ)ヒーローは世界を制す』p127

 赤塚は、以前読んだ「映画の友」のコラムを、思い浮かべた。「映画の友」は、アメリカの映画情報を掲載したいわばハリウッドニュースのようなものであった。『奥様は魔女』というタイトルが、赤塚の記憶に残った。ルネ・クレール監督の新作の予告である。
〈魔女は、すなわち魔法使いだ。自分はなにかになりたいと夢見ている女の子は、いつだって、それを叶えてくれるものを欲しがっている。それが魔法だ。〉
 赤塚は、魔法からすぐに鏡を連想した。「りぼん」編集部に、新連載のテーマを持ち込んだ。

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 これが『ひみつのアッコちゃん』の創作秘話となるわけですが、1962年の話なのに奥様は魔女……? と一瞬目を疑います。
 しかし「ルネ・クレール監督の新作」ということで検索してみると……、どうも日本未公開のアメリカ映画のことを指していたみたいですね。

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奥さまは魔女』と『ひみつのアッコちゃん』の両方を生んだ『奥様は魔女

 原題は「I Married a Witch」、1942年の映画です。
 「私は魔女を妻にした」という意味の原題ですから、『奥さまは魔女』の原題(Bewitched)よりもっと「奥さまは魔女」という日本語に近いタイトルの作品だったわけです。
 どうもアメリカにおいても、ルネ・クレールの『奥様は魔女』に続いて『媚薬』(1958年)が作られ、そして『奥さまは魔女』に繋がる……という「魔女もの」の歴史があったようですね。


 『奥様は魔女』は日本未公開ですから、赤塚不二夫は完全に映画情報誌による情報だけで「魔法使い」のイメージをふくらませたのでしょう。
 日本で「魔法少女アニメ」が生まれるきっかけを作ったのは間違いなく『奥さまは魔女』(テレビドラマの方)なのですが、因果関係をさらに辿ると、映画の『奥様は魔女』が日米共通のルーツとして挙げられるのかもしれませんね。