コミナタ漫研vol.03レポ−ト〜相田裕と読む『ちはやふる』の回〜
ちょっと年末年始を振り返りつつブログ更新したいと思います。
先月は冬のコミケに先立って、参加したいイベントがありました。
『GUNSLINGER GIRL』(『コミック電撃大王』で連載中)の作者として知られる相田裕がゲスト出演した「コミナタ漫研」です。
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来る12月28日、コミックナタリー主催のトークイベント「コミナタ漫研〜マンガ家に聞く、同業者の気になる仕事」の第3回が開催される。ゲストの相田裕が指定した「いまもっとも気になる同業者の仕事」は、BE・LOVE(講談社)にて連載中の末次由紀「ちはやふる」。
イベントでは「GUNSLINGER GIRL」で知られる相田に、「ちはやふる」の魅力とその源泉をプロの視点から語ってもらう。またもうひとつの「気になる仕事」として、志村貴子「青い花」にも言及する予定だ。
コミナタ漫研vol.3、相田裕と読むのは「ちはやふる」 - コミックナタリー![]()
ぼくはこれを見に行くために、冬コミよりも早めの、28日から東京入りするスケジュールだったのです。
初参加した結論をいうと、今回のコミナタ漫研はかなり面白かったです。
ひとつの作品を取り上げて語るイベントというと「BSマンガ夜話」が連想されるでしょう。
そのマンガ夜話が「読者目線の『ここに気付いてほしい』」だったとすると、コミナタ漫研は「漫画家視点の『ここに気付いてほしい』」なんだなあ……と感じました。
相田先生の切り口が特にそうだったのかもしれませんが、「こういう工夫を、漫画家が頑張ってしてるところも見てくれたら嬉しい」っていう気持ちがストレートに伝わってくる、いいイベントだったと思います。
このイベント自体は、ライブのTwitter実況が許可されていたので、自分もリアルタイムで実況していたのですが、ブログなどでのレポートも自由にしていいそうですから、当時の実況をもとに記事にしておきます。
図版を載せられないので具体的にはわかりにくいかもしれませんが、雰囲気だけでも伝われば。
コミナタ漫研vol.03レポ−ト(ゲスト:相田裕/お題:『ちはやふる』)
- 複数のモノローグがやたらと多い漫画。1ページで何人もモノローグで喋っていたりする
- 心象風景が多くて、背景はあんまり描かない。それも競技かるたの心理を描くためかも
- 基本的に、間白のないコマ割り。タチキリも少ない
- コマとコマが繋がっていると、(客観的な空間よりも)「キャラの内面世界」を前面に出しやすい
- 間白がないというより、コマの境界が溶けてしまっているコマ割りもある
- 主人公(と作者)の「境界をなくして自由になりたい」という気持ちが伝わってくる
- 末次先生は、自分で「漫画から自由になりたい」と発言しているので、本人が意識して「自由なコマ割り」を目指してることは間違いないのでは
- コマの枠線は、普通ならカメラフレームと同じ
- そのカメラフレームがなくなるということは、現実世界よりも心象風景を描くことになる
- 相田裕本人は逆で、コマで世界をちゃんと切り取ろうとするタイプ
- 末次先生は縦のコマ割りがうまい。縦に割ったコマ割りだと、見開きを一気に読める。感動が醒めないまま勢いで読める
- 「かるたの強いキャラの強さ」をどう描くかという話
- 線の重量感がなくて迫力のない絵柄なのにどう描くのかと思ってたら、「わたのはら こ」と詠むフキダシが溶けて伸びたりしている。フキダシの線が細くて背景に溶け込みやすいから逆にできる表現
- グラデトーンを使ったフキダシ。こちらも背景に溶け込む例。ストップモーションの場面だと緊張感が出る
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- サブテキストは『青い花』。内面世界の描き方が『ちはやふる』と対照的
- 時間を区切ろうとする『青い花』のコマ割りに対して、コマの境界が溶けている『ちはやふる』は時間も溶けている
- 青い花やガンスリは横にコマを割る。そうすると、構図にどっしり感がでる
- 左右の空白を余裕として使えるのも横長のコマの長所。余白のコントロールに作者がこだわれるのは、漫画そのものの長所
- 青い花には、コマ枠とフキダシ枠が溶け込んでる例もある。こうするとやはり心理描写を強くする印象がある
- 特徴的な手法をマネしようと思っても、自分の作風とマッチするかどうかは別(笑)
- しかし漫画家が自分以外の作品で興味を持つのは、真似できそうなスタイルの漫画よりも、自分のスタイルからかけはなれた漫画だったりする。『ちはやふる』を楽しんで読んでるのもそのため
- 青い花における、手の描写で内面を伝える表現の重要性
- 青い花の、コマまたぎのフキダシの「これすげー」という例
- コマ割りがかっちりしてると、読者が冷静になって考えてしまう(笑)。ちはやふるはスピード感のあるコマ割りで読者を冷静にさせずに「ひっかけ」するのがうまい
- キョコタンについて
- 天才競技者と漫画家の孤独はけっこう似ている
- よくできた演出ほど、読者には工夫を感じさせないもの
- クイーンとあらたが描写的に似ている
- たぶん、この二人は同種の人間だと意識して描いてる
- 逆に、千早はあらたと別種の人間だとわかる描写もある
- 「孤独な天才」サイドと、「友情パワーでよくばり」な千早サイドがどうなるかが楽しみ
- 友情テーマや恋愛テーマや天才テーマが、同列に公平に描かれてるのが好み
- 唐木「クイーンはなんで体型変わっちゃったんですか?」
- 孤高の天才キャラを、どう読者に好きになってもらうか。天才だから太っちゃう。親しみが出る
- 「天才は太っても勝てる」という、ある意味ちょっと残酷な描写。しのぶは自己管理できないのに強い。「自己管理して努力してきた人間が負ける」という構図
- 漫画家にとっても「努力だけでは超えられない才能のカベ」はある。例えば「すさまじい早さの筆のスピード」などもそうではないか
- ここで時間切れ。「つづきは配布したレジュメで!(笑)」
トーク終了後に相田先生から伺ったことですが、今回みたいに詳細な分析をして、自分でレジュメにまとめてみたのは初めてだった、とのこと。
「今日のためにレジュメを作ったおかげで、実際に自分の漫画の幅も広がった」と本人で仰っていたのが良かったですね。
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このイベントのトーク内容は、コミックナタリーまとまる予定もあるらしいのでお楽しみに。
ところで今月の28日に再び行われる第四回コミナタ漫研では、新條まゆ先生がゲストで出演だそう。
ぼくは参加できないと思いますが、まゆ先生がどんな漫画を取り上げるのかは興味深いところです。