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アニメ『刀語』は次のイノベーターになりうるか

刀語 第一巻 絶刀・鉋【完全生産限定版】[DVD]


 先日、Twitter上で講談社編集・太田さんとちょっとやり取りした会話をもとにして語ってみます。


 まず前提となる問題として押さえておきたいのが、「製作委員会システムによって1〜2クールのTVアニメを作る」という様態がどんどん難しくなってきているんじゃないか、ということ。


 有り体に「システムにガタがきている」と言ってもいいことかもしれませんが、2クールぶんを一気に放送する体力も恐らく無くなっているようで、まず1クールぶんのエピソードで一区切り付けてから、ちゃんと売り上げが出ているようなら「第二期」の企画を通してもうワンクール、なんてしのぎ方も珍しくなくなってきました(怪我の功名というか、これはこれで面白いスタイルになっているのですが)。


 それでえーと、たしかどこでだったかな、庵野監督がキングレコードスターチャイルド)の大月プロデューサーに向かって、


「あんたがやりはじめた製作委員会システムなんだから、あんた自身がケジメを取って終わらせろ」


サマーウォーズ [Blu-ray]……というようなことを言っていたような記憶が。


 それで『新劇場版ヱヴァンゲリヲン』は製作委員会に頼らない出資形式で作っていたりと、こうした 旧来のシステムに対する抵抗はそこかしこで見られることになります。


 ヱヴァ以前にも、(製作委員会システムそのものは用いているものの)『時をかける少女』あたりから「劇場アニメを成功させる」方法論が広がっていって、その細田監督は『サマーウォーズ』という次回作にキッチリ繋げられましたし、今年も『なのは』『Fate』『ハルヒ』とガンガン話題作が劇場公開されています。


 もちろん、従来から劇場アニメというのは存在していましたが、昨今の劇場アニメには「スポンサーのつかない深夜で1クール放送してDVDで回収」という、ときには砂を噛むかのような商売とは異なるビジネスの場を求めて劇場に飛び出すという性質が強くあるような気がしています。


 それでぼくは、『刀語』の「毎月一時間連続アニメ」というスタイル自体にイノベーターとしての価値が生まれないだろうか、と考えていました。


FAUST_editor_J 「その瞬間、太田に電撃走る——ざわざわ!」みたいな感じで「一年間・毎月連続12回・一時間放送」、ネーミングは「大河アニメ」という『刀語』の放送イメージが浮かんで、その夜には企画書(五行!)を書いてアニプレックスの鳥羽P・岩上Pを口説きに赴いたのであった。まんがみたいな本当の話。 link


 Wikipediaで確認してみるかぎり「毎月一時間連続アニメ」の前例はAT-Xの放送ばかりなんですが、そうではなく、地上波でみんなで観れる。しかも今ならTwitterで実況しながらでも観れる。……という形で放送される『刀語』には新しいトライを感じます。


 もちろん、イノベーションという言葉を使うからには、期待しているのは刀語』そのものの成功だけではなく、後の番組企画に繋がる成功です。

「取り替えの利く小作品を続けて劇場で流す」興行の可能性

 ちょっと似たようなことを感じていたのが、「30分1000円の劇場アニメ」という興業スタイルにトライしていたセンコロール(監督:宇木敦哉,配給:アニプレックス)です。


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 この「30分1000円の劇場アニメ」は当然、『劇場版「空の境界」』の成功がヒントになっているのでしょう。配給も同じアニプレックスですし。


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 しかし『センコ』は、全七回興行だった『空の境界』とは違って連作シリーズではないというのがポイントで、センコロール形式は「異なる作家の単品を入れ替えて興行する」という文化を根付かせてはじめて成功といえると思います。
 ということは、続く企画が『センコロール2』とかだったりしてもあまり意味は無いんですね。
 ですから、まだセンコ一本しか出てない現在では評価のできない試みだと言えます。


 ちなみに、『センコロール』と『空の境界』の話をぼくがしていた時に「じゃあ『ほしのこえ』は?」という疑問も寄せられました。

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 それはイノベーションとしての意味を考えることにもなるんですが、『ほしのこえ』は新海誠という作家性がプッシュされた結果としてその場が与えられていたのであって(その意味では『空の境界』も似たようなものです)、その『ほしのこえ』では、ここで期待しているような「取り替えのきく小作品を続けて劇場に流す」という興業のスタート地点にはならないだろう、ということです。


ほしのこえ』のイノベーション・・・小作品の劇場化。しかし作家性に依拠した特例であり、後に続かない


空の境界』のイノベーション・・・小作品の続きものが可能になった。しかし作家性に依拠する特例なのは同じ


センコロール』のイノベーション・・・後に続けられる。でもまだ新作なし


 これらは、それぞれで段階が違う。
 『刀語』の話と共通するのは、なにか後の時代に繋がる/託せるような形を残せるかどうか、現状のビジネスとは異なるものを提案できるかどうか、ここにつきます。


 ぼく自身は、アニメというものを「改変期ごとに区切られるシリーズを毎週30分ずつチェックする。しかもいくつも」というリズムとは異なるペースでも消費したいと思うし、アニメの作り方/尺の制限はもっと自由でさまざまあっていいと思う。
 ここまで読んだ人達の中には、「チャレンジ」とか「イノベーション」とか「新しい試み」といった言葉にむなしさを覚える人もいるかもしれませんが、現状が肯定していられない以上、大人たちはなにかをやっていくしかないのですね。